テーマ:「デザインアイディアの源泉」
ポジトロン代表/アートディレクター
土井 宏明 氏Hiroaki Doi
- PROFILE
- ポジトロン代表。医薬品、化粧品、菓子、飲料などのパッケージデザイン、アメリカ文学作家フィリップ・K・ディックの「ブレードランナー」原作「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」などの本の装丁多数や、音楽シーンのビジュアルや多数のマーチャンダイズのアートワーク、人気カフェのショップサイン計画をなど手掛ける。近年の仕事は商業施設やホテル、病院、宇宙事業関連会社のグラフィックやサイン計画、ミュージックプレイリストジャケット、テクノロジー情報サイトのキービジュアルなどのデザインなど。東京デザインプレックス研究所グラフィックデザイン専攻専任講師。
第1部:講義「デザインへの興味と影響源」
講義1
本日のプレックスプログラム講師は、アートディレクターで当校グラフィックデザイン専攻専任講師の土井宏明さんです。アメリカSF作家のフィリップ・K・ディックの映画のブレードランナー原作『アンドロイドは電気羊の夢を見るか? 』の装丁アートディレクションをはじめ、数多くのグラフィックアートを手掛けています。そんな土井さんのデザインの原点はレコードジャケット。「70’~80’のアナログレコードジャケットの迫力に衝撃を受けて、デザインという言葉を知る前からレコードジャケットをつくりたいと思っていました。」
講義2
実際にジャケットデザインの仕事をするようになると、楽しい仕事の中にも思い悩むことがあったと話す土井さん。ジャケット制作においては、アーティストのメンバー間でイメージが統一されていない場合が多く、そこに事務所やレコード会社の意向も乗っかってくるため、形にすることが困難なこともあったといいます。様々なジレンマがあるなかで、正解を導きだすことが面白くも苦労したというエピソードを話していただきました。
講義3
そんな中、パッケージデザインもジャケットデザインの一つなのでは?と思ったことから、医薬品のパッケージデザインに挑戦することに。様々な人間関係の中で右往左往しながらデザインするジャケットデザインの世界とは対照的に、商品企画担当が最初から明快なビジョンを持っている場合が多く、物事がテキパキ決まっていく疾走感があったそうです。「自分の中にコアなものを持ちつつ、対角線上にあるものをあえて選びとることで、デザインスキルに相乗効果をかけることができると気づいた」と土井さん。
講義4
『Design for people』『Design with people』『Design by people』という言葉をご紹介いただきました。デザインと人との関係性が時代によって変わってきており、時代が進むごとに左から右へ移行しているのではと土井さんはいいます。現代を指す『Design by people』は、誰もが主体的にデザインをする時代になっているというニュアンスを含んでおり、近年生成AIが台頭してきていることなどもこの言葉に拍車をかけていると話します。
講義5
ここからは土井さんが手がけた作品を紹介いただきます。まずはガム「Fit's」のパッケージ。地元に帰った際、道端に空箱が落ちていたのを見てこの商品のヒットを実感したそうです。続いては初音ミクとコラボした目薬のパッケージ。こちらは当時目新しかったAR技術が使用され、パッケージ上で初音ミクが踊るというギミックが仕込まれたもので話題になりました。そのほかにも洗顔フォームのOXYや酎ハイの-196℃など、誰もが知っているパッケージを数多く解説いただきました。
講義6
海外についての興味深いエピソードもご紹介いただきました。ヴィヴィアン・ウェストウッドとマルコム・マクラーレンという世界的パンクレジェンドのドキュメンタリーDVDのパッケージを手掛けた際、この作品を収蔵したいと世界最大規模の美術館であるニューヨークのメトロポリタン美術館から連絡があったそうです。実際には展示には至りませんでしたが、世界的な美術館からのオファーに驚いたという土井さん。さらに、海外ならではのファンを引き込む広告展開も紹介してくださいました。
講義7
話題は土井さんの代表作の一つである「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」の装丁デザインへ。本の表紙をメディアと捉えた土井さんは、Web展開でも同じようにユーザーに訴求できるよう、わかりやすくアイコニックなデザインに仕上げました。さらにTシャツにも同じデザインを施すことで、マーチャンダイジングとしても機能するクロスメディアに。表紙から興味を掻き立て、ファッションと融合することで本の魅力を伝える手法についても詳しく説明していただきました。
講義8
最後には土井先生が影響を受けたデザイナーを一覧でご紹介いただきました。「口紅から機関車まで」というデザイン論で有名なレイモンド・ローウィをはじめ、映画界にタイトルデザインの分野を確立した人物ともいわれるソール・バス、タイトルデザイナーの巨匠カイル・クーパー、IBMやスティーブ・ジョブズ創業のNEXTのロゴを手掛けたポール・ランド。他にもヨゼフ・ミューラー=ブロックマンや8vo、ジェイミー・リードなど授業だけでは中々知り得ないデザイナーをたくさん教えていただきました。土井さん、本日はありがとうございました。