PLEX PROGRAM REPORTプレックスプログラムレポート

テーマ:「デザインと○×△ ~伝統工芸と地方創生~」

お鋳成代表/南部鉄器地域おこし協力隊

小泉 成文 氏Narifumi Koizumi

PROFILE
2023年7月から岩手県奥州市の伝統工芸である南部鉄器の地域おこし協力隊に着任。伝統的な南部鉄器のモノづくりを学びつつ、3D等デジタル技術や自身の海外経験を活かした鋳物展開に向けて日々模索中。2023年第54回福岡市美術展福岡市美術連盟奨励賞(デザイン部門)受賞。2022年ソニーグループ株式会社主催の3Dモデルコンペティション「BACKDROP」にて審査員特別賞を受賞、他受賞少数。https://oinari.me/

第1部:講義「デザインと○×△ ~伝統工芸と地方創生~」

講義1

本日は、お鋳成代表の小泉成文さんにお越しいただきました。大学・大学院時代は会計やマーケティングを学び、卒業後はデジタルマーケティングの営業やNPOでインバウンドプロモーションに従事。その傍ら独学で学んだ3D制作を行う小泉さんは、海外に数年間滞在したのち、岩手県奥州市で南部鉄器地域おこし協力隊に着任。「奥州3Dデザイン展」を企画し、全国から南部鉄器の新しい3Dデザインを公募するコンペ&展示会を初開催するなど、伝統工芸の情報発信および後継者問題の解決に携わる活動をされています。

講義2

岩手県奥州市に広がる美しい胆沢扇状地の衛星写真を見せてくださったあと、「Krebs Cycle of Creativity」 という図を紹介した小泉さん。プロダクトデザインについて、iPhone 15 Proを例に科学とデザインの関連性について解説してくださいました。「iPhone 15 Proは本体にチタンを採用しました。チタンの大きな特徴は、アルミより強度があること。強度があるので薄くできるため内部が広がり、その分新たな機構の搭載が可能になるかもしれない。素材の特性を知ることはデザインする上で重要です。」

講義3

小泉さんが関わっている南部鉄器の素材である鉄は、磁石につく性質からほぼ全てリサイクルでき環境に優しい素材ですが、手入れしないと赤錆がついてしまいます。金属と錆は切っても切り離せない関係とのことですが、四酸化三鉄という黒錆をつける工程を行えば長持ちするようになるため、科学的に「錆をもって錆を制する」設計ができるそう。「伝統工芸はデザインと工学と科学が密接に関係していると感じています」と小泉さんはおっしゃいます。

講義4

当校でも「地方でデザインに関わりたい」「地方創生に興味がある」という学生の声が増えていることを踏まえ、アドバイスをいただきました。「日本の地方にはまだ知られていないだけの優れたものがたくさんあると思います。これからさらにインバウンド対応であったり、優れたデザインで人を惹きつけることは求められると思いますので、デザインの力で地方創生に貢献できるチャンスを掴みに行ってください。」

第2部:ワークショップ「南部鉄器 x 〇〇」

ワークショップ1

ワークショップでは、「南部鉄器」×「なにか」のコラボレーションを企画します。何とコラボすればバズるか?思い出に残るか?リピートするか?面白いか?など、考える観点は何でもOKです。どんなターゲットに、どんな方法で南部鉄器を広めていくか、小泉さんが持参してくださった南部鉄器を実際に触りながら、5名1チームに分かれて考えていきます。以下、学生たちの考案したアイデアを紹介します。

ワークショップ2

チームA:南部鉄器×「街&場所」。街にあるバス停、ベンチ、オブジェ、公園の遊具などを南部鉄器にするアイデア。子供の頃に触った手触りなどから南部鉄器のことを覚えてもらうには有効なのではと考えた。 チームB:南部鉄器×「結婚式」。その名も「鉄婚式」。南部鉄器を使用して作られた指輪(磁石を埋め込んでくっつくペアリング)、ティアラ、印鑑、誓約書を書くペン、入場の音楽に使用する鉄琴など、様々なアイテムに鉄器を活用。「長く持ち、一度熱したら冷めにくい」という特徴も結婚式の場面にぴったりだと考えた。

ワークショップ3

チームC:南部鉄器×「電子名刺」を考案。捨てられてしまう紙の名刺を、ICチップなどを埋め込んだリサイクルできる鉄で作るアイデア。見た目がかっこよく、話の題材にもなるため南部鉄器を広める効果も期待できる。 チームD:南部鉄器×「コップのフチ子さん」。かわいいだけでなく、鉄分が摂れて身体にいいというメリットも。様々な企業とコラボしてデザインをあ企画できる。 チームE:南部鉄器×「キャンプ場」。保温に優れている南部鉄器をキャンプ場でレンタルできるようにするアイデア。使い心地を実感していただき、家での日常的な使用を促す。

総評

「チームで話し合いを始めたときはふわっとしたアイデアからスタートしたと思うのですが、各チームで練った内容のレベルが高くて驚きました。中でも一番いいなと思ったチームは、鉄婚式を提案してくれたBチームです。」Bチームには小泉さんから岩手県のお土産が贈呈されました。南部鉄器の魅力を知ると同時に、伝統工芸と地方創生におけるデザインの役割について考える機会になりました。小泉さん、ありがとうございました。