PLEX PROGRAM REPORTプレックスプログラムレポート

テーマ:「学習をデザインするということ〜スペキュラティブの思索〜」

クリエイティブディレクター

石井 大介 氏Daisuke Ishii

PROFILE
大学在籍中にアパレルブランドの立ち上げに参加。卒業後渡米し、 Parsons School of Designに於いてデザインを学ぶ。ニューヨークの制作会社で映像・グラフィックの制作に携わり、帰国後、デザイン関連の教育機関にて開発業務に従事。その後独立し、ファッション、インテリア、ICT関連の企業などでデザインコンサルティングに携わっている。現職は京都芸術大学の専任講師。元東京デザインプレックス研究所デザインストラテジー専攻講師。

第1部:講義「学習をデザインするということ〜スペキュラティブの思索〜」

講義1

本日のプレックスプログラムは、クリエイティブディレクターの石井大介さんをお迎えします。ニューヨークのデザイン学校Parsons School of Designでデザインを学ばれ、帰国後は幅広い分野のデザインコンサルティングやデザイン教育に携わっていらっしゃいます。当校のデザインストラテジー専攻の立ち上げにもご尽力いただき、フューチャーデザインラボの1期生ジェネレーターも担当していただきました。本日は、“スペキュラティブデザインとは”の問いをきっかけに、学生たちと一緒に様々なデザインの学び方について考えます。

講義2

まずは、新しい発想の形として注目を集めている「スペキュラティブデザイン」について紐解いていきます。「スペキュラティブ」とは日本語で「思索する・推測する・俯瞰して見る」という意味であり、スペキュラティブデザインは「未来について考えるきっかけを提供する」ことを目的としたデザインだそう。今ある問題をどう解決するかということよりも、この先の未来はこうなっていくだろうという推論に基づいて問いを立てるという手法です。つまり、人々が未来について考えるきっかけを与えてくれるデザインこそがスペキュラティブデザインであると石井さんはおっしゃいます。

講義3

次に、デザインの成り立ちに深く関わるアート思考のお話をしていただきます。その昔アートにはテクノロジーという意味があり、ラテン語でアルス、ギリシャ語でテクネと呼ばれていました。フランスの哲学者アンヌ・ソヴァニャルグ氏の解釈では、船に乗るために船を作る、そして船をオールで漕ぐという動作を合わせてアートと呼ぶ、としています。漕いでいる人間にアート(技術)があって、同時に機械としてのテクノロジーがないと船は前に進みません。この二つが混ざり合った状態にアートとテクネを見い出すというのがアンヌ氏の視点なのだそうです。このように、時代の流れとともにアートの意味は変化をしてきています。デザインも同様に、今後様々な意味に変化していくのかもしれません。

講義4

数多くの場でデザイン教育をされている石井さんが大切にしているのは、実際に現地に足を運びリサーチに行く「フィールドワーク」だといいます。オンライン上でいくらでも調べ物ができる時代ですが、すでに出揃った答えや情報しか得ることができません。実際に街に出て身体を使って調べものをすることで、オンラインでは得ることのできないものや予想もつかないものに出会えることがあります。現在のフューチャーデザインラボでもこのフィールドワークは受け継がれており、学生たちの斬新なアイデアはここから生まれることも多くあります。

第2部:ワークショップ「スペキュラティブというフィルターを通して何がスペキュレーションできるかをグループで話し合おう」

ワークショップ1

講義の後半は、デザインが持つ未来思考の創造性=思索(スペキュレーション)をしながら、普段の生活やデザインに触れている中で感じている違和感を言語化し、グループで話し合うワークショップを行います。様々な意見が飛び交う中、あるグループは制服を例に出し“統一”の違和感について考えました。スーツを着るのが一般的とされているサラリーマンも、最近では少しずつ多様性を尊重し始めていると感じたことから、服装統一の過渡期にきているのでは?と結論づけました。

ワークショップ2

他のグループは、デザインを専門的に学んでいない人が思う“デザインのイメージ”に違和感を抱いたそう。視覚的なデザインのみをデザインだと思っている人が多いことや、デザイナー=芸術家もしくはアーティストというイメージを持たれやすいと感じているそうです。義務教育の美術の授業では工作や絵を描くことなどが多いため、自然とアーティスティックなものというイメージに繋がりやすいのではないかと考察しました。結論として、デザイン思考を学ぶ授業などがあれば、デザインに対してのイメージも変わってくるのではないかと提案しました。

ワークショップ3

またあるグループは、人間の心理学に基づいた空間”に違和感を感じました。例えば、多くの商業施設などで使われている「左回りの法則」などが代表的で、人間は無意識に左回りを好むということから、動線を左回りにしていることが多くあります。しかし、すべての人々がそれを快適に思うわけではありません。話し合った結果、店内の床や壁に矢印などで動線を案内することで、この違和感はなくなるのではと思案しました。

総評

最後に石井さんから総評です。「ワークショップでは自己表現や意識の流れについてなど様々な論点があり、短時間でしたが皆さんそれぞれの視点でスペキュラティブを咀嚼していて非常に面白かったです。デザインはせめぎ合った緊張関係の中で生まれてくるものだと最近は感じています。デザインに携わる上で、皆さんなりに譲りたくないものやスタンスを見つけていくという姿勢を大事にしてください。」石井さん、本日はありがとうございました。