テーマ:「デザインを広く捉えること ~社会課題と人類学の視点から~」
フューチャーデザインラボ ジェネレーター
山本 尚毅 氏Naoki Yamamoto
- PROFILE
- システム会社に勤務後、2009年に発展途上国の課題解決を目指した株式会社Granmaを創業。複数の展覧会を開催し、デザイン領域と社会課題の接点を創る活動に注力。現在は学び領域にシフトし、複数プロジェクトを進行中。趣味は本を読み、人に会い、たまに雪山に行くこと。また、2011年より書評サイトHONZのメンバー。2023年より日本総研創発戦略センタースペシャリストとしても活動中。
第1部:講義「デザインを広く捉えること ~社会課題と人類学の視点から~」
講義1
本日のプレックスプログラム講師は、当校のフューチャーデザインラボでジェネレーターを務めている山本尚毅さんと、山本さんのご友人であり人類学をベースにデザインを実践されている中山智裕さんの二名をお招きします。お二人ともに「デザイナーと名乗ったことはない」と仰りながらも、普段からデザインを手段として使用されているとのこと。デザインと人類学との関わり、そしてデザイナーではなくともデザインを手段として使う、という言葉の意味とは一体どのようなものなのでしょうか。教室内の期待が高まり講義がスタートします。
講義2
まずは山本さんのご経歴を伺います。山本さんがデザインに初めて触れたのは、「世界を変えるデザイン展」というイベントを主催することになった時でした。発展途上国の飢餓という問題を前に、課題解決に使用されているデザインに着目されたそうです。「デザインには社会課題を解決する力があるのではないか?」と思い始めたことをきっかけに、実際に課題解決のためにデザインされたプロダクトを集め、プロダクトを通してその奥に発展途上国にはどのような課題があり、どのような生活があるのかを想像できるようなイベントを企画されました。
講義3
山本さんは「世界を変えるデザイン展」を通して、デザイナーはただ美しいものをデザインするだけではなく、社会課題を解決する手段としてもデザインを使う必要があるのではないか?という気付きを提唱しました。「当時から少し時間が経った今、デザインは前後にある文脈をよく理解することが重要視されてきています。デザイン自体の領域や意味が広義になってきているのだと思います」と山本さん。さらに、今回のテーマの一つの人類学についても、デザインと大きな共通点があるとおっしゃいます。
講義4
ここからは中山さんに人類学についてお話を伺います。人類学とは、人類の多様な文化・生活の違いを分析する学問で、まずは現状を「観察」するところから始め、その後実際にその環境に入り込んで「調査」するという手法をとるそうです。このような人類学の手法は、デザインと共通している部分があると中山さんはいいます。「デザインをするということは、何かの価値を作るためにデザインをどう取り入れるのかを考えることだと思います。一見デザインとは無縁だと思われる領域においても、デザインの定義が広がったり新しい概念ができていくことによって、自然と影響を受けていきます。」
第2部:ワークショップ「観察」&「当事者研究」
ワークショップ1
ワークショップでは、人類学で行う「観察」がどういうものかを実践して学んでいきます。一つ目のワークショップは、宇多田ヒカルさんの「光」のMVを観察し、それを文章にするという内容です。例えば、MVの中にある水道水を飲むシーンからは「水道水を飲んでいる」という事実がわかります。さらに、「水道水が飲めるということは下水が整っている地域に住んでいるのでは」という推測ができます。人類学では観察を通して事実を捉え、そこから推測をすることでその環境や行動の文脈を読み解き紐づけをします。このように文脈を理解することがデザインと人類学の交点になります。
ワークショップ2
二つ目のワークショップは、課題の捉え方を勉強するため「当事者研究」を行います。自分自身をよく観察し、自分に起こっていることを自分の言葉で表現するという内容です。①個人課題を連想し、拡散➁個人課題をビジュアルで表現する➂ビジュアルを説明④説明したことから個人課題に名前をつけるという順番で実施します。自分の中にある小さな課題を考える際には、それが社会の課題にも当てはまるかを考えてしまうことが多いため、自分なりの言葉で表現し理解を深めるという目的があります。
ワークショップ3
学生たちが名前をつけた個人課題をいくつかご紹介します。スマホばかり見ていて他のことがおろそかになる”スマホ熱中症”、組織の中で常にリーダーや大切な役割を担いたいと考える”自分が乗った車はハンドル握りたがり病(最低でも助手席には座りたい)”、一つのことしか集中できず、それが終わるとすぐ寝てしまうということから”猪突猛進・意気消沈二型”など、様々な背景から個性的なワードが生まれていました。
総評
最後にお二人から総評をいただきます。
中山さん「二つ目のワークショップで行った課題に名前をつけるということは、とても身近なデザインの1つだと思います。自分の考えのみだけだとバイアスがかかるけれど、他者の視点を借りて自分の頭の構造と違う観点が入ってくることは、人類学の考え方や手法と通ずる物があるのではないかと思います。」
山本さん「クライアントのいるデザインの仕事とは違い、自分自身の課題を考えることで新しい課題の捉え方ができると思います。挑戦してみてください。」
本日はありがとうございました!