テーマ:「WORDING LESSON」
コピーライター/クリエイティブディレクター
下東 史明 氏Fumiaki Shimohigashi
- PROFILE
- 1981年生。2004年東京大学法学部卒業後、同年(株)博報堂入社。現在、第3クリエイティブ局。主な仕事に、MINTIA「俺は持ってる」、イエローハットTVCM、日経電子版「365日分の差は大きい」、2ndSTREET「セカストする?」、花王「クイックルで良くない?」、PloomTECH、1本満足バー、MONOKABU、VIEWカード、鬼速など。著書に『あたまの地図帳』(朝日出版社)。TCC審査委員長賞・新人賞・ファイナリスト、新聞広告朝日賞、交通広告グランプリ、日経広告賞、ヤングカンヌ日本代表、日経広告賞など受賞多数。東京デザインプレックス研究所プレックスプログラム登壇。IG : f_shimohigashi_offical
第1部:講義「WORDING LESSON」
講義1
本日のプレックスプログラムは、博報堂コピーライター/クリエイティブディレクターの下東史明さんをお迎えします。MINTIA『俺は持ってる』、1本満足バー『まんまん満足』、日経電子版『365日分の差は、大きい』など、誰もが一度は聞き覚えのある有名コピーを多数制作している下東さん。そんな業界のトップランナーの下東さんから、コピーライティングのいろはをご教示いただきます。「私は”コピー=単なる言葉”ではなく、ベネフィットを感じさせるもの、つまり”企業や商品が経済活動を営む上で必要とする言語表現”と定義しています。人それぞれ感じ方が違うベネフィットを、言葉でどう感じさせるかがコピー考案の基本になります」と下東さんは話します。
講義2
ベネフィットを含んだコピーを考えるためには、どのようなテクニックが必要になるのでしょうか。ポイントは、企業が訴求したいポイントと消費者が知りたいポイントを見極めて、一致している部分を言葉で設計することだそうです。例えば『10秒チャージ、2時間キープ』のように数字を使ってより具体的に表すとイメージがしやすくなり、消費者が感じるベネフィットが増します。他には、商品の購買意欲が増すタイミングを言い当ててあげるというポイントも。お正月の風物詩的CM『お正月を写そう』でお馴染みの富士フイルムの使い捨てフィルムカメラですが、実は人が多く集まるお正月にこそおすすめであると商品の利用タイミングを消費者に対して謳っているそうです。
講義3
さらに、日本語独特の言葉の活用も重要であると下東さん。「例えば、“てにをは”の一文字を変えただけでコピーの意味が変わってきます。どんな言葉を選び、どんな組み合わせにするか。様々なパターンを考え、最終的にどれを選ぶかを精査することが、言葉やコピー、言語表現を詰めていく作業です。熟考して導き出した言葉を更に詰めていくと、イメージや受け手の印象が変わることも多いです。ターゲットを変えると、シンプルが良い場合もあれば、変わった表現の方が良い場合も出てきます。コピーというものは、創作活動ではないので、依頼者がどう思うかも一つの判断基準となってきます。」
講義4
下東さんは語彙を豊かにするために、普段から言葉の意味をよく考えているといいます。例えば、『世界』と『社会』。記号で見ると一見同じように見えますが、この2つの言葉の意味が違っている箇所を細かく紐解いていく作業をしていきます。このように、意味を一つひとつ考えることが、まさに言葉と向き合うということだと下東さん。また、自分の持つ文脈や趣味趣向を自身が知ることも大切な要素の一つだそう。リンゴを見て瞬発的に思い浮かべるものや文脈は人それぞれであり、その違いは理解の癖みたいなものだといいます。
第2部:ワークショップ「コピーライティングをやってみよう」
ワークショップ1
後半は実際に、いくつかの言葉のワークショップを行います。まずは、先ほど話題にあがった『世界』と『社会』について、それぞれの意味を書き言葉で説明する作業を行います。ゲームが好きだというある学生は、『世界』をのめり込むスペースと捉え、『社会』をプレイヤーによって構成されている場所と考えました。「認識できる空間・関係というのがシンプルでいい定義です。皆さん言葉の個性が溢れていて、捉え方が違っていてとてもいいです」と下東さん。この訓練によって、よく使う言葉についてもより自分なりの理解を深めることができます。これがまさに日本語と向き合う、ということです。
ワークショップ2
次は、言葉の言い換えのワークショップです。最初は『休日』を違うフレーズに言い換えてみます。「単純な言い換えに描写を加えることが大事」と下東さん。学生たちはそれぞれ、『休息日』『ウィークエンド』『ファミリーデー』などに言い換えました。続いては、『新しいスマホのカメラの性能』を他のフレーズに言い換えます。「切り口を変えず、ただストレートに伝えてほしいです」という下東さんの言葉に、ある学生は『電話のできるカメラ』と言い換えました。逆の発想がとても面白いと評価をいただきました。
ワークショップ3
最後にワークショップの総集編として、東京デザインプレックス研究所のキャッチコピーを考えます。ある学生はSNS広告を意識し、『1年後、想像もしなかった自分へ』『デザインがあなたに学ばれたがっているよ』というコピーを提案しました。下東さんからは、「良いWORDINGですね。特にデザインを擬人化している世界観が面白いです」とコメントをいただきました。人がベネフィットを感じる部分はイメージや印象の部分であり、好きかどうかはデザインや世界観が占めているとのこと。コピーやテキストで補えるのはベネフィットの部分のみなのだそうです。
総評
最後に下東さんからメッセージをいただきました。「今回のテーマでもある、”WORDING LESSON”は実は知性のレッスンであると思っています。学びというものは、自分に教えてくれるものを探す作業。興味関心・理解・趣味嗜好の癖に気づき、そこから外れているものこそが新しい学びを与えてくれます。時間をかければかけるほど皆さんの中で伝えたいこと、言語表現というものがよりソリッドになってくると思います。」本日の講義を通して下東さんのWORDINGの真髄を捉えることができたのではないでしょうか。下東さん、本日はありがとうございました。