PLEX PROGRAM REPORTプレックスプログラムレポート

テーマ:「茶の湯とデザイン 守破離について」

茶人/SHUHALLY 庵主

松村 宗亮 氏Souryou Matsumura

PROFILE
1975年横浜市生まれ。英国国立Wales大学大学院経営学科卒(MBA)。ヨーロッパを放浪中に日本人でありながら日本文化を知らないことに気づき、帰国後茶道を始める。「裏千家学園茶道専門学校」を卒業後、2009年に横浜関内にて茶道教室SHUHALLYを開始。「SHUHALLYプロジェクト」として “茶の湯をもっと自由に、もっと楽しく” をモットーに茶道教室やお茶会を主宰。茶の湯の基本を守りつつ現代に合った創意工夫を加えた独自のスタイルを構築し、これまでに海外10カ国、首相公邸などから招かれ多数の茶会をプロデュース。コンテンポラリーアートや舞踏、ヒューマンビートボックス、漫画等、他ジャンルとのコラボレーションも積極的におこなう。裏千家十六代家元坐忘斎に命名されたオリジナル茶室「文彩庵」はグッドデザイン賞を受賞。

第1部:講義「茶の湯とデザイン 守破離について」

講義1

本日のプレックスプログラムの講師は、茶人の松村宗亮さんです。松村さんは自らの茶室「SHUHALLY」の運営のほか、お茶の魅力をさらに伝えるため抹茶どら焼きの店舗運営も行っています。歴史が古い家元が多数を占めるお茶の世界で、33歳の時にお茶教室を始められたそうです。挑戦続きのこれまでの道のりで、大切にされてきたのは「守破離」という考え方。千利休の言葉で、基礎固めをし、アイデアを実践し、自分の型を作っていくという稽古や学びの発展段階の流れを表しています。今回の講義は、松村さんがお茶の世界や考え方とどのように向き合ってきたのか、守破離になぞらえてお話ししていただきます。

講義2

お茶というと、格式が高く厳粛な雰囲気の中行うものというイメージを持つ方が多いですが、実際に学んでみると、ルールを守るだけでなく、自分なりの表現ができるクリエイティブな一面もあるのだそうです。まずは「守」の段階として、お茶道具を中心に茶道の変遷について紹介していただきました。もともとは権力者が豪華な輸入品をアピールする場であったお茶会。そのカウンターカルチャーとして「わびさび」を生み出したのが、千利休です。その後も奇抜な形や偶然の美を愛でる工芸に見て取れるように、新しいお茶の形がその時代の茶人たちに提案され続けてきました。「受け継いだものを吸収して、自分なりの表現をするのがお茶の楽しみです」と松村さん。

講義3

続いては「破」の段階です。お茶というだけで構えてしまう若い世代に向けて、松村さんはお茶のかっこよさをビジュアルで表現したいと考えました。そこで作ったのが、ステンレス、鉄、ガラスなど、現代の身近な素材で再構成したSHUHALLYのお茶室です。ここで若い世代に向けたカジュアルなお茶会をたくさん開催しました。このお茶室は翌年のグッドデザイン賞を受賞するなど、多くの注目を集め、お茶の世界への新たな入り口となりました。他にも、アクリル製の茶箱などの斬新な茶道具の製造をはじめ、海外でのお茶会や数々のパフォーマンスとのコラボレーションなど、新しいのお茶の世界を発信しています。

講義4

お茶やお茶会ではない表現で、お茶の思想を伝えることが、松村さんの「離」です。例えば、自由が丘にオープンさせた抹茶どら焼きのお店。松村さんは、まだまだハードルが高いお茶文化の入り口として、抹茶どら焼きを作りました。店内でお茶を立てるだけでなく、装飾に掛け軸を使ったり、目の前で作る行程を見られるようにするなど、お店の中にお茶のエッセンスが散りばめられています。他にも現代アートのインスタレーションやVR映画、オンラインでのお稽古など、多様な領域でお茶の世界を伝えることに挑戦しています。「お茶の楽しさをどう伝えるか、先人たちが守破離を続けてきたからこそ、今があると考えています。自分も伝道師のひとりとして活動を続けていきたいです。」

第2部:ワークショップ「伝統文化を守破離を通じてアップデートする」

ワークショップ1

講義の後半はグループに分かれてワークショップを行います。今回のテーマは「伝統文化を守破離を通じてアップデートする」です。松村さんがお茶の文化を多くの人に伝えるために守破離の概念を実践してきたように、学生たちも現在に伝えられている文化のアップデートに挑戦します。「伝統文化ではないもの、最近のカルチャーについてでもいいので、みなさんの考えを聞かせていただければと思います」と松村さん。学生たちはどのように、「守」:基礎固め、「破」:自分なりのアップデート、「離」:違う表現への展開を考えるのでしょうか。

ワークショップ2

チームごとの発表に移ります。あるチームは歌舞伎をアップデート。着物で観劇する常連さんが多い歌舞伎において、普段着でも気負わずに観に行ける暗闇の中での観劇や、ハンバーガーやコーラの持ち込み、歌舞伎公演中の掛け声講座のイベントを考えました。どれも若者が気軽に歌舞伎座に行くためのアイデアです。「歌舞伎座だけ暗くしても、入り口までの道で分かってしまうので、駅からのしかけが必要かも。掛け声講座はやってみたいですね」と松村さん。おせちに着目したチームは、お正月以外の節句にも食べられていたという昔の習慣をリバイバルしつつ、コース料理へのアップデートを提案しました。松村さんからは「おせちを年中やるのは珍し過ぎですね。和食屋さんとの差別化がポイントです」とコメントをいただきました。

ワークショップ3

お寿司をテーマにしたチームは、自分でネタやシャリをカスタマイズできるセルフ寿司や、寿司の定義に着目し、揚げ寿司・焼き寿司を提案。松村さんも「寿司は米と魚を合わせたものという定義を初めて知りました。超冷やす寿司でも面白いかも」とアイデアが膨らみます。神社のお祭りを選んだチームは、クラブミュージック調のおはやしやLEDで装飾した神輿を提案。話題性のあるものと伝統的なものを組み合わせることで、祭りの本質である地域社会への参加につながるのではと考えました。「伝統的な祭りも、当時の若い人が熱狂できる形が今に伝わったのだと思いますし、このアイデアの祭りだったら絶対楽しいですよね」と松村さん。

総評

最後に総評をいただきます。「素晴らしいアイデアを聞かせていただいて、とても刺激になりました。私も守って破って離れていますが、若い時の方が破れた!と思いますし、失敗も多かったものの、その繰り返しで形になると思っています。みなさんも人生の時間は限られているので、どんどん破ってご自分の離を追求していただけたらと思います。離まで行き着いたら終わりではありません。進むうちに見える景色は変わっていくので、ある程度自分の山や目標に近づくと、今まで気に留めなかった基礎のことが見えてくる。守破離はその繰り返しです。皆さんの将来が楽しみです。いつかまたお会いしましょう。」松村さん、ありがとうございました!