テーマ:「Graphic Art Direction」
PRETEND Prints & Co.代表 アートディレクター
神戸 太郎 氏Taro Kambe
- PROFILE
- デザイン会社「PRETEND Prints & Co.」代表。雑誌「POPEYE」のアートディレクションをはじめ、ファッションブランド「BEAMS」「THE NORTH FACE」「URBAN RESEARCH」のカタログやルックブック、企業のロゴデザインなど幅広く手掛ける。東京デザインプレックス研究所プレックスプログラム登壇。
第1部:講義「Graphic Art Direction」
講義1
本日のプレックスプログラムは、PRETEND Prints & Co.代表・アートディレクターの神戸太郎さんにお越しいただきました。プレックスプログラムには今回が初めてのご登壇です。神戸さんは雑誌POPEYEのアートディレクターとしてご活躍されているほか、BEAMSをはじめとしたファッションカタログやルックブックのアートディレクションも数多く手掛けられています。デザインを始めたのはなんと30歳を過ぎてからだという神戸さんですが、本日は20代前半からのキャリアや、ファッションを伝えるアートディレクターのお仕事についてお話ししていただきます。
講義2
まずは、神戸さんが30歳でデザイナーになるまでのユニークな経歴をお話しいただきました。神戸さんは高校卒業後、音楽をきっかけにアートに興味を持ち、20歳でニューヨークの美術学校に入学。3ヶ月ほどで中退した後は、周りの同年代が就職していく焦りがある中、本を読むこと・映画を観ること、さらにZINEの制作に熱中していました。神戸さんが制作したZINEは、日本のZINEブームの先駆けとなっています。帰国後は、30歳を前にして一念発起し、DTPの学校に通学。その後は同級生の会社のエディトリアルデザインを手伝いながら過ごし、POPEYEのリニューアルのタイミングでデザイナーとして加入することになったそうです。
講義3
その後、デザイナーからアートディレクターにポジションが変わったことで、仕事の視点も変わってきたそうです。アートディレクターの主な業務内容は、企画/構成、デザイン、予算管理などがありますが、中でもスタッフィング(誰に何を頼むかを決定すること)が非常に重要だといいます。デザインのビジュアルを決める際には、「モデルに服を着せて撮影するだけでもたくさんの手法があるので、参考になる雑誌や書籍を見ながら要素を決めていく」と神戸さん。「1ページにパンツを5本掲載する」「モデルの全身を映す」などの制限をクリアしながら、イメージ通りのビジュアルを撮影する工程が腕の見せ所です。
講義4
過去の雑誌や書籍を参考にすることについて、「真似をすることにネガティブなイメージを持つ人が多いですが、僕はサンプリングだと捉えています」と神戸さん。例としてHIPHOP音楽を挙げ、人類の共通財産の音楽があり、それを引用して新しい音楽を作り、共通財産に戻して循環させる、というようなクリエイティブの構造についてお話しいただきました。神戸さん自身が美術史を専攻していたことや、批評関連の本を多く読んでいたことから、物事を体系的に見て社会的にどのような存在であるのかを常に意識して考えているそうです。
第2部:ワークショップ「ページを作ってみよう」
ワークショップ1
講義の後半はワークショップを行います。お題は雑誌4ページ(見開き2ページ)の構成企画です。条件として挙げられたのは、アウトドアブランドのリュックサックを1個以上紹介すること。学生たちはグループになって構成のラフを作ります。神戸さんが実際にいつも参考にしている書籍を大量に持ってきてくださり、各グループはそこから撮影の仕方や構成など、ビジュアルのヒントを探します。「企画は存在しない雑誌を想定してもかまいません。自由に作ってみてください。絵のうまさも関係ありません」と神戸さん。学生たちはどのような4ページを考えるのでしょうか。
ワークショップ2
発表に移ります。あるグループは、スポーツ選手がリュックを使って競技をする瞬間を捉えた誌面のアイデアを発表しました。1ページ目には大きな写真でハンマー投げのハンマーがリュックになった写真を配置。2ページ目以降はボクシングのサンドバッグ、アーチェリーの的など、様々なスポーツ用具がリュックに代わったイメージを入れることで、耐久性とカラーバリエーションをアートのように伝えます。神戸さんからは「広告みたいな感じで面白い。ページが限られているので、ページを分けずに1ページで見せてインパクトを持ってきてもいいかも。シリーズにしてもいいですね」とコメントをいただきました。
ワークショップ3
見開きを効果的に使った構成を発表したグループもありました。前半の2ページの見開きは多人種の様々な人を並べて、紙にプリントされたリュックを持ってスタジオ撮影、後半2ページは前半と同じ構図で本物のリュックを使用し、背景は野外に変わります。この対比を見せることで、様々な人が様々な場所で使うことができるということを伝えたかったそうです。「プリントはTシャツにしてもよかったかも。参考書籍を見て、それを真似するということが忠実にやられていてよかったです」と神戸さん。どのグループも参考書籍をうまく活用し、限られた時間の中で構成企画を考えることができました。
総評
最後に総評をいただきます。「4ページの構成は多いようで少なく、表現したい内容を削ぎ落としていく作業も必要になるので結構難しいです。僕自身も参考書籍を見て、これを真似したい!と後から理由をつけていくことをよくやっているので、ビジュアルから入るのもいいと思います。また今回のようなグループワークでは、初めて会った人達の中で自分がどのように振る舞うかを考えることも、この仕事をやる上で実は重要なことです。引っ張っていくリーダーもいれば、アイデアだけ出す人、なんとなく頷いてちょうどいい人など、自分がどの役割でチームにはまるかを見つけられるといいと思います。」神戸さん、ありがとうございました!