テーマ:「新しい時代のための建築とストラテジデザイン」
upsetters architects 主宰
岡部 修三 氏Shuzo Okabe
- PROFILE
- 2004年よりupsetters architects 主宰。「新しい時代のための環境」を目指して、建築的な思考に基づく環境デザインと、ビジョンと事業性の両立のためのストラテジデザインを行う。2014年よりブランド構築に特化したLED enterprise 代表、グローバル戦略のためのアメリカ法人New York Design Lab.代表を兼任。JCDデザイン賞金賞、グッドデザイン賞、iFデザイン賞など、国内外での受賞歴多数。著書に「upsetters architects 2004-2014,15,16,17」(2018年、upsetters inc.)、共著に「ゼロ年代11人のデザイン作法」(2012年、六耀社)、「アーキテクトプラス“ 設計周辺”を巻き込む」(2019年、ユウブックス)がある。東京デザインプレックス研究所プレックスプログラム登壇。
第1部:講義「新しい時代のための建築とストラテジデザイン」
講義1
本日のプレックスプログラムの講師は建築事務所upsetters architects主宰の岡部修三さんです。岡部さんは建築設計や事業のストラテジデザインを行うほかに、別会社でデザイン関連のプロジェクトや海外事業を展開するなど幅広い分野でご活躍されています。当時としては珍しく大学院卒業のタイミングで起業した根底には、「納得のできる環境において自分の信じるデザインで社会に関わりたい」という想いがあったそうです。本日は、自分の想いとデザインでどのように社会にアプローチをしていくか、岡部さんの実践についてお話ししていただきます。
講義2
建築家という肩書きにこだわらずに自分に何ができるかを考えてきた、という岡部さんのお仕事には3つの軸があります。建築的な環境デザイン、パートナーシップとストラテジデザイン、未来のためのリサーチと実践です。なかでもプロジェクトを実現するためのパートナーシップづくりを重視しているそうです。クライアントも自分も納得できる戦略にするために、経済性とビジョンのバランスを強く意識しているのだとか。また、並行しているプロジェクト同士の関係づくりも積極的に行っています。「どのプロジェクトも社会的な背景やで世界観でつながることができる。連鎖し、広がりながら進むことで、社会を動かせられれば。」と岡部さん。
講義3
コロナ禍の時代背景と合わせて会社の位置付けが変わった事例として、おしぼりのレンタル業を行うFSX株式会社の取り組みを紹介していただきました。オフィスの改装から始まった依頼でしたが、クライアントの「働き方を変えたい、おしぼりの可能性を最大化したい」というビジョンから、岡部さんの提案は事業仕分けにまで発展。事業を見直す中で、2016年の香港でのSARSの流行をきっかけに、現代におけるウイルスの脅威を想定し、ウイルスを無効化する技術をおしぼりに掛け合わせる取り組みを進めていきました。コロナ禍では、その技術を提供する仕組みづくりをしたことで、FSXはおしぼりを扱う一企業から、多くの同業者や飲食店をサポートする立場に変わったのだそうです。
講義4
これからの働き方や社会との関わりで重要な2つの考え方を教えていただきました。1つ目はB Corp という国際的な企業認証基準です。再生可能エネルギーの使用有無や、働く人の満足度などで構成され、「信頼できる会社」を認証するため世界中に広がっています。もう1つは公民連携。公共事業とは逆で、地方行政が公共的な事業を行う民間企業をバックアップすることで可能性を広げるという考え方です。公民連携は、先進的なビジョンとファイナンスのバランスを解決する方法のひとつですが、そこから外れるものをどうサポートしていくかを考えることも、岡部さんたちの次の課題であるそうです。
第2部:ワークショップ「おしぼりの可能性を考える」
ワークショップ1
講義の後半のワークショップの課題は「おしぼりの可能性を考える」です。学生たちは「ビジョンの設定」と「デザインのための準備」の2つのステップで考えます。ビジョンの設定では、自分の興味と社会の課題の接点を見つけます。その2つをつなげることで、最終的に納得できるデザインに仕上げていきます。デザインのための準備では、リサーチ、分析、戦略、デザインの順で説明できるように組み立てて考えます。分析まではできるだけ主観を入れないようにするのがポイントです。「僕はこの考え方だけを持って社会に出て、現在に至るまで使ってきました。どのレイヤーでも仕事ができるようになるために必要なものだと実感しています。」
ワークショップ2
学生の発表を紹介します。20代女性のペルソナを立ててリサーチをしたというグループは、コミュニケーションができるメッセージ付きおしぼりを提案しましたが、自分たちでも、おしぼりである必要はあるかわからない、という疑問を抱えていました。岡部さんからは「ペルソナは、リサーチをして分析した後にできるものです。客観的なリサーチから入ってペルソナに辿り着いていれば、新しさのある提案になったと思います」とアドバイスをいただきました。新しさはアイデア単体ではなく、適切なリサーチから生まれます。同じ課題を持ちながら、人と違うリサーチと分析ができるかが重要になってきます。
ワークショップ3
「おしぼりでは身の回りのものを拭くことが多い」ということに着目したグループは、同じ機能をもつウェットティッシュとの違いをリサーチし、おしぼりは個包装であること・ウェットティッシュは大容量であることに注目し、それぞれのメリット・デメリットを分析したそうです。時間が足りず、戦略まで十分に考えられなかったという発表者に、岡部さんは「今までで1番リサーチをちゃんとしようとした姿勢が見られてよかったです。このスタートの感覚を忘れずに」とコメント。リサーチをしている中で、初めに設定したビジョンとの差を認識すると、さらにビジョンが深くなる感覚があるのだそうです。そのビジョンをもとにリサーチも深めていくことで、自分にしか気づくことのできない視点に辿り着きます。
総評
最後に総評をいただきます。「主観を入れないリサーチを徹底して行うこと、自分ごととして捉えられるビジョンを設定すること、これらを両立して戦略を立てられれば、自ずと良いデザインになります。デザイン自体のテクニックを考えすぎなくても大丈夫というのが今回一番伝えたいことでした。僕はこの考え方を20年近く実践で使ってきて、外れたことはほとんどありません。デザインをする人、調査をする人、ビジョンを語る役割の人もいると思いますが、この流れでさまざまなことが成り立っているという感覚を持ってもらえればと思います。頑張ってください。」岡部さん、本日はありがとうございました!