PLEX PROGRAM REPORTプレックスプログラムレポート

テーマ:「ブランディング思考」

artless代表/アートディレクター

川上 シュン 氏Shun Kawakami

PROFILE
1977年、東京/深川生まれ。artless Inc.代表。日本の伝統美と現代的感覚、古典技法とテクノロジーを組み合わせるなど、アートとデザインの境界に位置する「芸術としてのデザイン」を探求している。活動領域は多岐にわたり、アート、デザイン、タイポグラフィック、インタラクティブ、ビデオ、インスタレーションなど、アートとデザイン双方から多方面へアプローチを続け、グローバルに活動を行う。主な受賞歴は、NY ADC:Young Gun 6、カンヌ国際広告祭(Cannes Lions International Advertising Festival)金賞、D&AD賞、iF:International Forum Design Hannover(Germany)」、CREATIVITY INTERNATIONAL AWARDS:41st annual、ONE SHOW DESIGN(NY)ゴールドペンシル金賞、DFAA-Design For Asia Award 2013(HongKong)、東京TDC、グッドデザイン賞、SDA AWARDS 2013、DSA Award-Japan Design Space Association Award(GOLD PRIZE-日本空間デザイン賞/優秀賞)、The Webby Awardなど。東京デザインプレックス研究所プレックスプログラム登壇。 www.artless.co.jp

第1部:講義「ブランディング思考」

講義1

本日のプレックスプログラム講師は、今回でご登壇5回目となる、artless代表・アートディレクターの川上シュンさんです。川上さん率いるartlessは、世界的に活躍するブランディングエージェンシーです。多様な国籍のメンバーで構成され、マルチリンガルなブランドデザインを行なっています。artlessのブランドデザインは、アートやデザインが融け込むクリエイティブと、建築領域にまで至る包括的なディレクションが特徴的です。「瀬戸内リトリート青凪」や「mist hotel」など、国内外で多くの印象的なブランド体験を生み出しています。本日は川上さんのブランディングの哲学についてお話しいただきます。

講義2

ブランディングとはブランド体験をデザインすること、それはビジネス×デザイン×カテゴリーの要素の掛け合わせです。デザインするカテゴリーが多いほど、ブランディングの手が届く範囲が広がります。VI(ビジュアルアイデンティティ)の展開から印刷物、Web、サインデザインまで包括的にデザインできない限り、ブランディングは成立しないと川上さん。単に良いデザインをすればいいという訳ではなく、ビジネス戦略も非常に重要です。ビジネスの目的や方向性を整理するとともに、必要なデザインやコミュニケーションを設計することが求められます。

講義3

「hotel koe tokyo」は、建築事務所SUPPOSE DESIGN OFFICEとartlessがチームになって進めたプロジェクトです。領域が違うチームの進む先を一点に定めるのもブランディングの一環だと川上さんは仰います。デザインの前段階で、コンセプトとなるキーワードを設定し共有することで、各チームが同じキーワードに則った空間づくりを行うことができます。また、artlessが担当したクリエイティブの中にはサイン計画も含まれていました。一般的にはサイン計画は建築の領域ですが、グラフィックを担当したチームが行うことで、ロゴやポスターで表現するブランドのエッセンスを、空間にも落とし込むことができます。

講義4

川上さんが大切にされているサーキュラデザインの考え方は、軽井沢と東京の二拠点生活に裏付けられています。自然の中で感じる光の微妙な変化や、都市との音環境の違いが、未来を考える上で大切なことになると感じたそうです。VIを大切に作るだけでなく、サステナブルな価値観で表現ができるか、ビジネスとして持続可能か。環境の面でもシステムの面でも循環的なブランディングを考えたいという想いから、「新しい文化やコミュニティの構築へ繋げる」というartlessの理念が生まれたそうです。「僕はデザインやアート制作をライフワーク的に捉えているので、価値観の共有を大切にして仕事をしていくという宣言をしています。」

第2部:「セルフブランディングワークショップ」

ワークショップ1

講義の後半はセルフブランディングのワークショップを行います。起点となるのは、前半にも出てきたブランドキーワードです。ブランドキーワードは、コピーライティングやビジュアルムードを作り上げていくためのコンパスの役目となるものです。川上さんから、ブランドキーワードの探し方を教えていただきました。まずは自分自身を想起する言葉を多く書き出します。そして意味の似た言葉をまとめたり削ぎ落としたりしていきながら、3つのサークルまで絞ります。するとそのサークルの融合点からブランドコアが見えてくるといいます。「なりたい自分でも、強みでも弱みでもいいです。自分の価値だなと思えるブランドサークルを目指して考えてみてください」と川上さん。

ワークショップ2

川上さんご自身のブランドキーワードは「mystique・kind・indefinable  comfort」。日本的な美意識や神秘性を大切にする思いや、異なるものを融合させ、潜ませるイメージを内包しています。学生たちは自分で考えたブランドキーワードを発表します。「脱固定概念・好奇心・笑顔」や、「ギャップ・具現化・自由自在」など、興味のある領域や性格によってアウトプットは様々です。「flexible・positive・aspiration」と発表した学生に、川上さんからは「この3つは全て元気なイメージ。一度まとめて、削除した言葉を復活させるとブランドが広がっていく」とコメントをいただきました。

ワークショップ3

ある学生は「共感力・ロマンティック」に加えて、自分のなりたい姿として「知的さ」というキーワードを入れました。キーワードの中になりたい自分をあえてプロットするのは、ブランドの成長のために良い方法だと川上さんは仰います。カジュアルブランドが少し背伸びをした表現をする時も、クオリティやクリエイティビティなどのキーワードを入れることがよくあるそうです。また「繊細さ・深さ・秩序」と設定した学生には「相反する要素を共存させるためにどうするか考えてみたり、キーワードから着る服を選んでみたりすると面白いコンセプトになっていきそう」とブランドを深めるアドバイスをいただきました。

総評

最後に総評をいただきます。「今日僕が言いたかったのは、デザインは見た目の話ではないということ。背景の意味やコンセプト、美学やフィロソフィーなどが視覚化されている状態を作ることがデザインで、その相対的なものがブランドなんだと思います。何を作りたいのかを最初に言語化しておくと、デザインした後も言語化して説明でき、人を納得させるプレゼンにつながります。ビジネスでもデザインでも隙がない状況を作るのが大事です。言語化という点においてキーワードはタッチしやすい方法だと思うので、活用しながらモノづくりに向かってもらえればと思います。」川上さん、本日はありがとうございました!