PLEX PROGRAM REPORTプレックスプログラムレポート

テーマ:「課題解決から可能性創造へⅡ」

株式会社EVERY DAY IS THE DAY 共同代表/クリエイティブディレクター

佐藤 夏生 氏Natsuo Sato

PROFILE
博報堂のエグゼクティブクリエイティブディレクター、HAKUHODO THE DAYのCEOを経て、2017年、ブランドエンジニアリングスタジオEVERY DAY IS THE DAYを立ち上げる。adidas、NIKE、Mercedes-Benzといったグローバルブランドのクリエイティブディレクターを歴任。近年は、TOYOTAの事業戦略やdocomoのダイバーシティCSRの立ち上げ、霧島酒造のビール事業戦略、ZOZOアプリWEARの開発、渋谷区の都市デザイン等、クリエイティブワークを拡張している。GOOD DESIGN賞をはじめ、ACCマーケティングエフェクティブネスグランプリ等、国内外で数々の賞を受賞。2018年から、渋谷区のフューチャーデザイナー、横浜市立大学先端医科学研究センターのエグゼクティブアドバイザーを務める。東京デザインプレックス研究所プレックスプログラム登壇。

第1部:講義「課題解決から可能性創造へ」

講義1

本日のプレックスプログラムの講師はEVERY DAY IS THE DAY共同CEO・クリエイティブディレクターの佐藤夏生さん。佐藤さんは、課題解決ではなく「可能性創造」という新しい視点でブランディングのお仕事を中心にご活躍されています。「今の時代は新しいことを習得すること、つまり学びが何よりもラグジュアリーなことです。東京デザインプレックス研究所での講義は6度目ですが、毎回熱量がすごいので楽しみにしています。」と佐藤さん。本日の講義は佐藤さんのクリエイティブディレクターとしての歩みやブランディングの事例をお話しいただき、また学生からの質問を通してアイデアやクリエイティビティとは何かについて迫ります。

講義2

博報堂で20年、後期の4年間はHAKUHODO THE DAYでブランディングのお仕事をされていた佐藤さん。ブランディングというと、昔はビジュアルイメージの作成がメインでしたが、現在は空間設計、スピーチライティング、経営戦略に至るまで、会社の行動全てをブランド体験として作り上げなければいけません。また、クリエイティブディレクターという仕事も、昔は美大出身者がほとんどでしたが、現在はアパレルで服を作る人や、スタートアップでサービスを作る人など多様な人が担う職業に変わってきています。今の時代に必要とされているクリエイティブは、「表現」だけを指す言葉ではありません。

講義3

佐藤さんが「アイデアはこれだ」と理解した瞬間があるそうです。きっかけは旧iPhoneのホームボタン。従来のボタンはリモコンなどで選ぶ・進めるために多くの種類が用意されていましたが、iPhoneでは膨大な情報にアクセスした後、すぐ「戻る」ことができるという新しい便利さを形にしていました。科学的な技術革新ではなく、意味を捉え直したことによって新しい社会の掴み方を作り出すことができます。この発想革新こそがアイデアでした。「ただ面白いだけではなく、社会とどう結びついて人を幸せにするかがアイデアです。それを形にするための表現や技術としてクリエイティビティがあります。」

講義4

新しい時代のブランディングは、利益競争よりもソーシャルイノベーションが重視されます。例えば、P&Gがロンドンオリンピックの企業広告でお母さん業を顕在化したことで、ダイバーシティを世界的に推進したムーブメントになりました。また「地球を救うことが仕事」というパタゴニアの姿勢は、多くの消費者に支持されています。この時代では、売上が一位であるということよりも、そのブランドが未来を作っているか、人や社会を前進させているかの方が評価され、応援されている現状があります。次の時代の当たり前を作るためには、今生まれたばかりの新しい感覚にどのような形を与えるかを、具体的に考えることが必要だと佐藤さんはおっしゃいます。

第2部:ワークショップ&質疑応答

ワークショップ

講義内のワークショップでは、身の回りのアイデア探しを行いました。学生たちは今までの人生を振り返りながら、新しい社会を捉えていたもの、「そういえばこれはアイデアだ」と思ったものを発表します。ある学生は、切符からSuicaへ移行したことを挙げ、ただ切符が使いやすくなっただけでなく、同時に買い物もスピーディーにできるようになったことを話しました。その他にも多くのアイデアが発表されましたが、その中でも佐藤さんの一押しは、マヨネーズの星形の絞り口です。硬さと角を与えたことで、油でできているマヨネーズを健康的なイメージに変えることに貢献したといいます。

質疑応答1

また後半では学生から佐藤さんへの質問の時間が設けられました。多数の質問がある中で、ある学生は「仕事でネガティブな感情をもったときの向き合い方」について尋ねました。佐藤さんは、「自分のマーケティングやクリエイティブの力を、大量生産や均一化を加速させるためには使いたくない」とおっしゃいます。その上で自分にとってネガティブな要素に向き合うときは、怒りや気持ち悪さを携えながら、どうしたら社会を前進させられるかを考えているのだそうです。たとえどのような状況であっても、様々な接点を持って社会を変えようとする佐藤さんの熱い想いが伝わります。

質疑応答2

その他にも、「広報の仕事をしているが、事務作業が多いため、自分がやりたいブランディングに100%注力できていない」という学生の悩みにも答えていただきました。「未来を作る仕事はベースとしてめちゃくちゃしんどいです。人が思いつかないことを思いついて、社会を変えていくことが簡単なわけがありません。ただ、すごくやりがいのある仕事です。先ほど作業と言っていましたが、一個一個のPRの文章に体重をかけてクリエイティブに書いたら、周りが認めてくれて自由度が上がるかもしれない。コアアイデアを見つけ、使うことで、提案が通りやすくなるかもしれない。僕もいまだに苦しくてハードだけれど、めげずに乗り越えて、その先を目指すしかありません。」

総評

最後に総評をいただきます。「今日の話で言うと、クリエイティブとは新しい社会へのアクションです。さらに言うと、潮目を読みながら時代の感覚を言語化してみたり、デザインしてみたりしながら形を与えて、みんなが分かるようにするとムーブメントになります。これがアイデアの正体です。社会に目を向けたときに怒りや気持ち悪さを感じながら、救われない人や困っている人を救うために、どうやったら一人の人を幸せにできるかというところから考えると強いアイデアになると思います。」本日の講義中、佐藤さんへの質問やアイデアに関するディスカッションは途絶えることなく、たくさんの学生が真剣に話を聞いていました。佐藤さん、本日はありがとうございました!