PLEX PROGRAM REPORTプレックスプログラムレポート

テーマ:「デザイナーだからこそできるブランディング」

cosmos代表/アートディレクター

内田 喜基 氏Yoshiki Uchida

PROFILE
1974年静岡生まれ。博報堂クリエイティブ・ヴォックスに3年間フリーとして在籍後、2004年cosmos設立。広告クリエイティブや商品パッケージ、地場産業のブランディングにとどまらず、ライフワーク「Kanamono Art」ではインスタレーション・個展を開催。その活動は多岐にわたっている。受賞歴:D&AD銀賞/銅賞、Pentawards銀賞/銅賞、OneShowDesign銅賞、London international awards銅賞、Red dot design award、NYADC賞、日本パッケージデザイン大賞銀賞など。東京デザインプレックス研究所プレックスプログラム登壇。

第1部:講義「デザイナーだからこそできるブランディング」

講義1

今回のプレックスプログラムの講師は株式会社cosmos代表・内田喜基さん、5回目の登壇です。内田さんは、大手企業の商品デザインを行うほか、伝統工芸や地域産業のブランディングやコンサルティングを多数手掛けられています。内田さんが企業や職人の想いを汲み取り、グラフィックデザインの視点から整理したビジュアルは、明快で納得感があり、多くの人に伝わるインパクトをもっています。「分かりやすい美大や代理店出身ではありませんが、今やりがいのある仕事に就いています」という内田さん。本日は内田さんが築いてきたブランディングメソッドを書籍から紹介しながら、手掛けられたプロジェクトについてもお話しいただきます。

講義2

内田さんのブランディングメソッドは、「現場に行って考える」「機能と仕組みを突き詰める」「見た目をきれいに整える」と大きく3つのステップがあります。特に、ビジュアルを作る前段階の「現場」のメソッドはクライアントとのコミュニケーションの鍵となる部分です。内田さんは対面で話し合うことの空気感に加えて、工房や道具、スタッフの働き方を見ることで、課題解決のヒントをつかんでいきます。どうしても現場に行けないときは動画を送ってもらう、質問事項をより明確にするなど、より労力をかけるそうです。現場でストックした情報を整理して、何を一番訴求したら伝わるのかという視点でブランドストーリーを生み出します。

講義3

「機能と仕組みを突き詰める」ためには、職人さんから聞いたこういうものを作って欲しいという情報だけでは足りません。どこに悩みがあるのか、ブランドが変わるために何が必要かを探らなければいけません。「何が必要なのかを話している中で、そのアイデアを言葉を通して感じることがあると思います。デザインの場合は何が必要なのかを視覚的なアイデアとして考える必要があります」と内田さん。また「見た目をきれいに整える」ためには、ターゲットや売り方のアウトプットの見え方を整理した上で、書体やトンマナを徹底的に検証します。どのステップにおいても、そのブランドをよりよくするためにという視点が重要です。

講義4

内田さんの手掛けたブランディングの事例として、菓子舗井村屋の事例を紹介していただきました。きっかけは会長の「100年続く新しい見え方を目指したい」という言葉。内田さんは先々代から継いできた小豆をシンボルマークのモチーフに、井村屋のいの字の演出でロゴマークを作成。ロゴタイプの書体も一から制作し、王道感と品格がありながらも古さを感じさせないようなロゴデザインにしました。さらにメニュー表やパッケージ、店内のデザインも含めて、トータルな見え方のデザインを行っています。グラフィックデザインやブランディングにおいては、どういうブランドでどうありたいかを抽出して視覚化することが重要だといいます。

第2部:「日本酒 ブランディングワークショップ」

ワークショップ1

講義の後半では商品ブランディングのワークショップを行います。「来年100周年を迎える酒造の新しい日本酒」のテーマで、都道府県を起点にして企画とデザインコンセプトを考えます。内田さんからは「ざっくばらんに楽しんでもらえれば」という言葉とともに、実際に手掛けられた日本酒のパッケージのお仕事を紹介していただきました。100年をわかりやすくするための商品名、樹齢100年の杉の木のチョコを添えたセット、鵜飼の街をアピールした大きな鵜のイラストのラベルなど、見せ方の戦略やデザインは様々です。前半の講義で学んだデザインと企画、両方の重要さを意識しながら、チームでブランディングに取り組みます。

ワークショップ2

学生たちは、商品のデザイン、ターゲット、キャッチコピーや売れる仕組みをひとつの企画としてまとめて発表しました。最初のチームは「新潟美人」。ターゲットは美容意識の高い女性ということで、「呑む美白」というキャッチコピーです。スーパーには出品せずに、エステサロンやECサイトでの展開を狙います。内田さんからは「エステサロン限定という展開の仕方で、誰のためのどういうお酒かが明確になり、しっかり企画が立っていますね」と嬉しいコメントをいただきました。他にも岡山県にゆかりのある桃太郎をオマージュしたもの、広島県の厳島神社の改修中も観光をたやさないコンセプトなど、各地の日本酒の企画が発表されました。

ワークショップ3

さらに個性的な日本酒のアイデアも発表されました。鹿児島県の桜島を象った紙容器のお酒は、大きな瓶の焼酎の逆をついて持ち運びのしやすさを狙いました。内田さんは「紙パックは差別化するのにいいなと思いました。コンパクトで捨てやすいからおつまみと一緒に旅のおともに、という売り方だと商品特性がわかりやすくなります」とアドバイス。大阪のたこ焼きを模した瓶のデザインのお酒は、たこちゃんというネーミングです。本物のたこ焼きのように笹舟に乗せるディスプレイ方法のアイデアも。「斬新ですね。たこちゃんという名前を深掘りして、キャラクターもセットにすることで効果的なアイキャッチなると思いました」と内田さん。

総評

最後に総評をいただきます。「ワークショップでは、チームで意見を出しながら、面白いな、違うなということを感じたと思います。チームで仕事をするときは、人の意見を感じながらクリエイティブを上げていくことが必要です。そしてデザインをして終わりではなく、人に想いを伝えて納得してもらうことが大事です。今までの仕事では、依頼外のことでも自発的に実践的なアイデアを提案したことが、長期のお付き合いにつながったと感じます。真摯に向き合い、クライアントさんに届けば、新しい相談や仕事という形で返ってきます。今日の講義がこれからに向けての気づきになるといいなと思います。」内田さん、本日はありがとうございました!