テーマ:「明日から使える編集思考」
ISHI inc.代表/クリエイティブディレクター
石原 篤 氏Atsushi Ishihara
- PROFILE
- ISHI inc. 代表。1977年生まれ東京都国立市出身。法政大学大学院工学研究科建設工学修了。2002年博報堂入社、博報堂ケトルを経て、2018年にISHI inc.を設立。SP 領域を起点に、リアルに人が動く統合コミュニケーションのクリエイティブディレクションを強みにしている。著書に『これからの「売れるしくみ」のつくり方~ SP 出身の僕が訪ねたつくり手と売り手と買い手がつながる現場~』がある。
第1部:講義「明日から使える編集思考」
講義1
今日のプレックスプログラムはISHI inc.代表 / クリエイティブディレクターの石原篤さんを講師にお迎えしています。石原さんは、デジタルやSNS領域も含めた総合的なコミュニケーションを設計するクリエイティブの第一人者です。博報堂ケトル時代に手掛けられた「ほろよい」のキャンペーンや、C.Cレモンの「忍者女子高生」は当時新しいコミュニケーションの可能性を感じるものして話題になりました。石原さんは、多様なメディアやタッチポイントを広告として構造的にまとめていくときに、編集的な考え方を使うことが多いのだそうです。今日は編集思考というテーマで、事例を交えながらお話しいただきます。
講義2
石原さんが統合的なコミュニケーション設計を手掛けた事例として、サントリーほろよいのテレビCMと連動したキャンペーンがあります。CMで映った沢尻エリカさんのInstagramのアカウントが現実に開設されたのを皮切りに、LINEアカウントや電話番号の開設など、CMで起こった出来事が実現するシリーズです。コミュニケーションの厚みを出すことで、ほろよいのブランドにも厚みを出すことを狙ったそうです。当時アカウントを持っていなかった沢尻エリカさんとSNSで交流できるという意外性や、彼女のキャラクターを感じるメッセージ設計により、20万人もの人が電話をかけて、キャンペーンに参加してくれたそうです。
講義3
ミスタードーナツとモスバーガーが提携した「モスド」のプロジェクトは、綿密に時間を編集した企画でした。「CM撮影でこんな商品があった!」と、パワーブロガーの辻さんと矢口さんからの発売前の情報発信、周辺のブロガーへの拡大、その後にメディア向けのPRやCMが動くというタイムラインは、発売日まで情報解禁してはいけないという業界のセオリーを覆すものでした。作っていく過程で視聴者を仲間にすることで、新たな経済圏を生み出す「プロセスエコノミー」にも通じる考え方です。「やはりコミュニケーションはどのタイミングで何を言われるのかがすごく重要で、その時間をどう編集していくかが大事だということを学んだ仕事でした。」
講義4
博報堂ケトル時代には「編集者」としてもお仕事されていた石原さん。雑誌の編集はもちろん、統合的なコミュニケーションを編集思考で設計しているという意味で、編集者だったと言います。石原さんの編集思考とは、関係性を連想すること。A=B、A≒B、A=-B……というように数式のように物事を対比しながら関係論で考えます。自己紹介を例にとると、普通に「趣味はサーフィンです」と言うより「趣味はオリンピックの公式種目にもなっているサーフィンです」と世の中と関係を結びつけることで、理解しやすくなります。「対象物を多面体の真ん中に置いて、各面の外界とどう関わっているかを捉えるのが編集です」と石原さん。
第2部:「デザインプレックスキッズを考えてみる」
ワークショップ1
後半のワークショップのテーマでは小学生を対象とした「デザインプレックスキッズ」のコンセプトをキーマンを起点に組み立てます。キーマンを起点にした例をあげると、『本屋大賞』は書店員をキーマンとしたことで、出版社、取次、書店、読者の関係性を変えるアワードになりました。また『ネスカフェアンバサダー』では企業の管理部をアンバサダーとして任命することを起点に、ネスカフェ側の人事配置まで見直してアンバサダーのサポート体制を整えたことで、オフィス全体を売り場にすることに成功しました。このように、キーマンとなる人を探し、その周りの人たちも芋づる式に巻き込んでいくコミュニケーション設計を学生たちは追体験します。
ワークショップ2
学生たちはグループごとに校長をキーマンとした学校のプランを発表します。あるチームは前澤友作さんをキーマンに、多様なコネクションを利用した講師陣と多角的なプログラムを企画しました。「マルチな教科というよりも、お金の学校くらいに絞ってしまった方が前澤さんからのパスが太くなってより良くなると思います」と石原さん。秋元康さんをキーマンにしたチームは「総合プロデューサー」という立場に着目。コンテンツにまつわる様々な制作の現場で学べるというカリキュラムです。「実際の会社で働けるという繋がりや、親子で秋元さんの作品に触れているという説明もロジカルでいいですね!」とコメントをいただきました。
ワークショップ3
他にも、子供を通わせる母親を校長に迎え、講師をイケメン俳優で固めた演技の学校や、誰もが子役時代のキャリアを知っている芦田愛菜さんを校長にしたオンラインと郊外の二拠点の学校など、個性的な企画が発表されました。中には、キーマンよりもコンセプトを重視してしまったため、苦戦したというチームも。ワークショップの最後に石原さんから総括をしていただきました。「うまくできたチーム、できなかったチームがあると思います。人を起点に数珠繋ぎに考えていく方法は、複雑なプランニングを簡略化するアプローチのひとつで、編集思考の代表例です。今日やってみて使いやすかったのなら、これからの活動で活かしてもらいたいと思います。」
総評
最後に講義全体の総評をいただきます。「僕はデザインプレックスで授業を行うのをとても楽しみにしています。他の場で授業をやることもあるんですけど、企業の研修としてリスクなしの状態で参加して、楽な方法を教えてくれよっていう人が多いと、つまらない授業になるんです。みなさんとは覚悟が違うんだと思います。これからは学校と社会を交互に繰り返していく、もしくはパラレルで動いていく時代になると思います。社会人でこの場にいる方はこのサイクルのスタートラインに立っている人なので、ぜひ頑張ってほしいなと思います。」石原さん、本日はありがとうございました!