テーマ:「 パッケージデザインの入り口」
BULLET inc代表/アートディレクター
小玉 文 氏Aya Codama
- PROFILE
- 1983年大阪生まれ。株式会社BULLET代表。「物質的な魅力をもつデザイン」に魅せられ、素材や印刷加工を駆使した制作を多数行う。特にパッケージに造詣が深く、著書に『パッケージデザインの入り口』がある。東京造形大学 専任教員。主な受賞歴に、One Show (gold)、Pentawards (platinum)、Cannes Lions、D&AD、iF、グッドデザイン賞など。https://bullet-inc.jp/
第1部:講義「パッケージデザインの入り口」
講義1
本日ご登壇いただくのは株式会社BULLET代表・グラフィックデザイナーの小玉文さんです。小玉さんの手掛けるパッケージデザインは、そのどれもがぱっと目を引くインパクトがあり、作り手の想いも手に取れるようなメッセージ性を感じるデザインです。また商品ごとに考え抜かれた世界観や表現、そのバリエーションの豊かさも大きな魅力となっています。小玉さんがディレクションされたお仕事の多様さに、数十人規模でデザイン業務をしている会社だと勘違いされることもあるそうです。本日はアイデアが光るパッケージデザインの仕事とその裏側についてお話しいただきます。
講義2
はじめに、小玉さんが今まで手掛けられたパッケージを紹介していただきました。数ある中でも日本酒『錦鯉』は小玉さんの代名詞とも言えるお仕事です。酒造の社長から「面白い商品を作ろう!」と連絡をいただいた際に、電話口で直接話をしながら、白い酒瓶を鯉に見立てるコンセプトが出来上がっていきました。小玉さんはご自身の会社をやっていく上で、特に決裁権のある方との直接のやりとりが1番の醍醐味だと仰います。他にもデザインの意図や可能性を自分の口から直接伝えられることや、自分たちが作り上げたという達成感など、いきいきとしたアイデアを生むコミュニケーションの魅力を教えていただきました。
講義3
次に講師としてご活躍されている東京造形大学でのパッケージデザインの授業についてもお話しいただきました。例えば「石を包むことで付加価値を持たせる」パッケージの課題では、箸置きとしての石の平たさや丸みの価値を研磨された川の模様で表現したものや、雪だるま作りの材料としてバケツと組み合わせたもの、石の形がよくわかる風船という斬新な素材を使ったパッケージなど、個性豊かな作品をご紹介いただきました。学生の作品でも、印象に残っているものは、綺麗なパッケージを作っただけでなく「この人しか思い付かなかっただろうな」というプラスアルファの個性が光って見えるそうです。
講義4
さらにご自身の書籍「パッケージデザインの入口」より、パッケージの分類について紹介していただきました。何か素敵なもの(商品)があったときに、人がモノを作るときの原動力は主に、大事にしたい(保護)、魅力的にしたい(装飾)、良さを伝えたい(宣伝)、使いやすくしたい(機能性)の4つに分類されます。書籍ではそれぞれの具体的な事例も掲載されており、商品に託した想いをデザインで表現する際の指針となる一冊となっています。唯一の正解がないデザインの仕事において、自分の正解を考えること、目的によって正解が変わること、さらにパッケージの領域にとどまらないデザインの多様性を伝えたかったと小玉さんは仰いました。
第2部:ワークショップ「A +B=?」
ワークショップ1
今回のワークショップのテーマは「A+B=?」です。小玉さんが引用されたジェームス・W・ヤングの言葉「アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせである」の通り、誰もが知っているモノ・コトから類似点や共通項を見つけ出し、それらを新しく組み合わせることで誰にでも明快に伝わるインパクトのあるデザインが生まれます。例としてちょんまげ×羊羹、ホルマリン漬け×ウォッカなどの意外な組み合わせを紹介していただきました。学生たちにはこのような“組み合わせの新しさ”を探す方法でアイデアを考えてもらいます。1番印象的だったアイデアには小玉文賞として、小玉さんデザインの電子基盤柄のマスキングテープが贈られます。
ワークショップ2
学生たちの発表を紹介します。リフレクターバンド×定規はさらに形が似ている豚バラ肉と掛け合わせておもしろグッズとしての展開を狙います。使い捨てカイロの後に温かなマスクになる商品は「マスクなのカイ(ロ)」という絶妙なネーミング。「大喜利みたいになってきましたね!」と小玉さんも楽しそうです。なぜか多かったのがおにぎりとの新たな組み合わせ。テントのようなおにぎり保温ケースや、子供の日に縁のあるちまきの形とリュックを掛けた外遊びの遊具セット「ちまキッズ」、遊び心のある旅の絵本×駅弁など、チームによって様々なアイデアが発表されました。
ワークショップ3
他にも色と味をヘアカラーに見立てたパスタや、香水のようなスマートな持ち歩き用調味料容器などが発表されました。全てのチームのアイデアが出揃い、いよいよ結果発表です。小玉文賞と電子基盤マスキングテープは、「ソーシャルディスタンスみつみつランド」に贈られました。見た目は1本の串団子ですが、パーテーションで区切られた区画にそれぞれ違う味の蜜がかかったお団子とパッケージのアイデアです。「パーテーションで蜜の味が混ざらないように区切られていて理にかなっているところがいいですね。」と小玉さんからコメントをいただきました。
総評
最後に総評をいただきます。「クライアント案件はサービス業だという持論があって、目的を達成することは大前提で、斜め上をいく提案が必須です。それがうちの会社に依頼してくださる原動力になっているので。さらにクライアントごとに異なる様々な世界観に、本当に共感して取り組むことが必要です。共感は人によってはすごく難しいと思うんですけど、それぞれに対して本当にいいなあと思って作らないと、表層だけで作るとボロが出てしまいます。商品の世界に100%向き合って作るというのが私の仕事の仕方です。」本日は世界観とメッセージを一目で伝えるお仕事の背景を垣間見ることができました。小玉さん、ありがとうございました。