テーマ:「はじめてのUXリサーチ」
UXリサーチャー
松薗 美帆 氏miho matsuzono
- PROFILE
- 株式会社メルペイ デザインチーム/UXリサーチャー ICUで文化人類学を専攻し、2014年株式会社リクルートジョブズへ新卒入社。HR領域のデジタルマーケティング、プロダクトマネージャーを経てUXリサーチチームの立ち上げを経験。2019年より株式会社メルペイにUXリサーチャーとしてジョイン。JAIST博士前期課程在学中。
第1部:講義「UXリサーチについて」
講義1
本日の講師は、UXリサーチャーの松薗美帆さんです。松薗さんは株式会社メルペイでUXリサーチャーとしてご活躍されながら、社会人学生としてUXリサーチをビジネスに活用する研究をされています。さらに、ProductZineでの連載やUXリサーチの入門書「はじめてのUXリサーチ」を執筆されるなど、UXリサーチについての情報発信も熱心に行われています。今回はプレックスプログラム初となるオンラインでの開催です。講義前半は松薗さんに「UXリサーチ」についてお話しいただき、講義の後半で学生の質問にお答えいただきます。それでは、松園さんよろしくお願いいたします。
講義2
UXリサーチとは「ユーザーの様々な体験について、調べて明らかにすること」。具体的なUXリサーチの定義や役割について松薗さんに説明していただきます。UXデザインという言葉があるため誤解されやすいのですが、UXはあくまで“体験した人がどう感じるか”ということ。開発側が意図した体験をさせることができないからこそ、異なる背景や嗜好をもつユーザーがどう感じたかを深く理解する必要があるのだそうです。また、UXリサーチで「何を解決すべきか」がわかっても「どう解決すべきか」は自分たちが考えないといけません。リサーチを踏まえた上で、チームの議論の場まで設計することが重要だと教えていただきました。
講義3
UXのダブルダイヤモンドに沿って考えると、UXリサーチの活用の仕方がより具体的にイメージできます。左側の「正しい問題を見つける」ダイヤモンドでは、ユーザーが困っていることや価値に感じていること、課題の優先順位などを明らかにします。右側は「正しい解決方法を見つける」ダイヤモンドで、プロトタイプの感想をもとにブラッシュアップを行ったり、複数のアイデアからあたりをつける調査を行ったりします。注意が必要なのは、ユーザーの問題を分かったつもりになって、いきなり右側のダイヤモンドから着手してしまうこと。ちゃんと左側のダイヤモンドができているのかを忘れずに右側に移ることが重要だといいます。
講義4
さらに、松薗さんが実感したUXリサーチの効能についてもご紹介いただきました。1つ目は「学びを得て大きな失敗を避けられること」。いざリリースしたものの、ユーザーが全然喜んでいないということがないように、リサーチの段階で小さく失敗し改善につなげること。これが1番大きなメリットだと感じるそうです。2つ目は複数のデータを組み合わせることで「データ解釈の解像度が上がること」。3つ目は「チームビルディングにも役立つこと」。ユーザーインタビューに同席してもらうなど、UXリサーチを通してユーザーに会う機会を作っていくと、チーム全体でユーザーへの理解が促進するため、議論がブレずに行えるそうです。
講義5
UXリサーチの範囲として2つの軸についてお話しいただきました。1つはUXの抽象度の軸で、表層から戦略までの5段階のレイヤーがあります。もう1つの軸はUXタイムスパンという時間軸です。「利用前」「利用中」「利用後」「利用期間全体」の4つの期間で捉えます。さらにユーザーインタビューなどの手法の解説も踏まえて、Uber Eatsを例にケーススタディを行いました。まず行うのは今自分がどんな状況かを整理すること。そして何を調べたいかを明らかにし、それに対してどんな手法が適切かを判断していくそうです。例えば戦略のレイヤーについて考えるときは定量的にみること、他社を見ることが重要だそうです。
質疑応答1
講義後半であがった質問を紹介します。1つは「UXリサーチャーになるにあたって、技術的・専門的な知識は勉強されましたか?」というもの。回答は、松薗さんの歩まれてきたキャリアの視点からのものでした。「私はもともとプロダクトマネージャーから始まっていて、技術とデザインというよりは調査が得意だと思います。ただUXの分野については学校に通ったり自分で学んだりはしていました。UXは様々な分野の学術的な背景が絡み合っているので、領域横断で学んでいく姿勢が重要だと思います。専門性でいうと、自分は文化人類学の質的な調査がもともとの軸の専門分野で、他のものは少しずつ勉強しているところです。」
質疑応答2
「解決に移る前に、正しい問題が分かっているかどうかはどのように判断するのでしょうか。」というのは講義中に紹介されたダブルダイヤモンドについての質問です。松薗さんにはご自身の経験も踏まえて答えていただきました。「リリースして全然だめだったときに、そもそも問題が分かっていなかったねと明らかになることが多いように思います。他には、チームのメンバーにこういうプロトタイプを作っています、とリサーチの相談をされたとき。話していくうちに、そもそもの問題を理解していないから、そこから調査したほうがいいと提案することがあります。メンバーとの壁打ちや、経験を重ねることで分かってくるのかなと思います。」
総評
最後に松薗さんは学生たちへUXリサーチを「小さく始めよう」というメッセージを送ります。おすすめはPCのインカメラでスマートフォンの画面を記録する“PC抱きかかえスタイル”。特別な機材や設備はいりません。「UXリサーチは何人も何時間もしなければいけないということはありません。1人からでも多くのことが学べます。0よりは1人に30分のリサーチを。次に1人だと偏るから2人、3人というように、まずは小さく始めてほしいです。UXリサーチの分野は広い、こういう手法もできるんだろうなと考えながら、知ること試すことをバランスよく進めるのが重要だと思います。」松薗さん、本日はありがとうございました!