テーマ:「空気をデザインする ~Part6~」
ベルベッタ ・デザイン代表/空間デザイナー
長谷川 喜美 氏Kimi Hasegawa
- PROFILE
- 空間デザイナー。2004年ベルベッタ・デザイン設立。【空気をデザインする】をテーマに、空間に関わる。近年の代表作として表参道イルミネーション、銀座イルミネーション『希望の翼』等の大型商業施設のクリスマスデザインの演出。スプツニ子!『 Tranceflora – エイミの光るシルク』展、日本橋桜フェスティバル『日本桜風街道』等のエキシビション・イベントにおける空間演出。日産デザインセンター等の企業コミュニケーションスペース、商業店舗の内装からCIデザイン、プロダクトデザイン、グラフィックデザイン等。その活躍の場は多岐に渡る。2013年の東京デザイナーズウィークでは28年の歴史で、初の女性クリエイターとして会場デザインを手掛け、以来、ミラノ会場においても会場デザインに携わる。フランス国民美術協会(S.N.B.A.) 主催サロン展2014年金賞/ 審査員賞金賞 DSA 優秀賞ほか多数受賞。DESIG NASSOCIATION NPO 理事。東京デザインプレックス研究所プレックスプログラム登壇。
第1部:講義「空気をデザインする」
講義1
本日のプレックスプログラムは、空間デザイナーの長谷川喜美さんをお迎えしてお送りします。長谷川さんは「空気をデザインする」をテーマに、イルミネーションや店舗の空間演出など、空間に関わる様々なクリエイションを手掛けられています。長谷川さんがデザインコアとされているのが、空間を超えて「空気をデザインする」という考え方です。その場にある有形、無形、全てを考え創造することで、訪れた人が五感全てでその場を感じる空間デザインを実現します。これが長谷川さんのクリエイションの特徴です。今回の講義では「空気をデザインする」ということについて、代表作の空間デザインと共にお話していただきます。
講義2
まずは長谷川さんが手掛けたお仕事について解説してくださいました。その場での「期待感」「発見や楽しさ」「記憶」などの異なる体験に一貫したテーマを持たせることで、空気が濃くなり、伝わる空間になります。そのためには、デザインにわかりやすいコンセプトが必要だと話される長谷川さん。『善光寺イルミネーション2018「開花-Blooming moment-」』では極楽浄土をイメージし、蓮をメインモチーフにしてプロジェクションマッピングを行いました。地元の学生さんに極楽浄土をイメージして作ってもらった蓮の香りや、光に合わせて作曲した音楽を用いるなど、まさに「五感」を使った空間演出です。
講義3
デザインの進め方に関しては「時間」に支配されるのではなく「時間」を支配するという意識が大切だとお話しいただきました。長谷川さんは毎朝 to doを書き出して、細かく予定を立てます。そして実際に作業をし、どれくらいかかったかを予定の隣に記入していくそうです。時間を区切って仕事を終わらせるのではなく、仕事にかかる時間が自分でどれくらい必要かを理解することが、「時間をものにする」ということ。子育て、デザイナー業、社長業、すべての仕事のクオリティをあげるためにご自身で考えられた時間術です。限られた時間のなかで最高のクリエイションをするために、前の日の晩の過ごし方や朝ごはんにも気を使われるそうです。
講義4
次に、デザインプロセスの6つの流れ「知・創・証1・伝・証2・魅」について解説していただきました。新江ノ島水族館の例では、「知」のステップは前例を踏まえて「本物の生き物たちが輝く空間」についてトリーター(飼育員)チームとディスカッションを行いました。「創」では「光るリング×レースフィッシュ」で海の光る生き物たちの繊細な美しさを表現するというコンセプトをつくり、「証1」ではCGで素材感や大きさなどを検証します。「伝」のプレゼンテーションで終わるのではなく、「証2」でレースのデザインや塗料・素材の検証を粘り強く行うことで、本番の「魅」でイメージパース以上の空間を作り出すことができるそうです。
ワークショップ:「東京の中心地でオリンピック・パラリンピックを盛り上げる空間を考えよう」
ワークショップ1
後半は実際の空間を想像したデザインのワークショップを行います。想定する場所は「丸の内ビルディング1階のアトリウム」。来年はオリンピックイヤーということで、テーマは「東京の中心地でオリンピック・パラリンピックを盛り上げる空間」です。一般来場者が参加できる要素を組み込むことを条件とします。学生にはパースベースなど実際のサイズ感がわかる資料が配布されます。「ポイントは、誰のための空間を創るか、その空間デザインで達成したいことを考えること。まだ見ぬ人に想像してもらうためのプレゼンをお願いします!」と長谷川さん。
ワークショップ2
学生たちの発表したアイデアを紹介します。「訪れた全ての人たちが言語がなくても楽しめる空間」がコンセプトのグループは地球儀風のガチャガチャのオブジェを提案。3方向からのけんけんぱのアーケードをくぐった3人でボタンを押すことで、金メダルが出てくるという仕掛けです。他のグループからは各国のユニフォームを飾り、訪れた人が表彰台に上れるというアイデアも。長谷川さんからは「金メダルをもらった後にさらに楽しめる要素があるといいですね」「表彰台だけだと空間のメインになるのは寂しそう。表彰台に上るためになにかをさせるという仕掛けがあるといいと思います」とアドバイスをいただきました。
ワークショップ3
あるグループは「祭り感を出すために提灯型ブースをオリンピックのエンブレムのように配置する」という複雑な空間のイメージが口頭でうまく伝えられず、発表が難航します。長谷川さんからは「まずはコンセプトを明確にシンプルにすることが大事です。いろいろと入れてしまうと企画が弱くなってしまいます。アイデアを伝えるための表現を考えることも踏まえて時間配分をきっちりしないと、せっかく考えてもうまく伝わりません。」とのアドバイスが。ワークショップの時間配分に苦手意識をもっている学生は多いと思います。「アイデアの表現の仕方を考える時間を確保すること」は今後のワークショップに活かしていきたいですね。
総評
最後に長谷川さんから学生たちに一言いただきます。「空間の現物がないプレゼンテーションの時点で『これがいいんですよ!』と言い切るためには、考え得る検証は事前にしておくこと。自分に言い訳せずに、デザインの責任を100%自分で持って仕事をしてください。プロになると時間の制約があるなかで仕事をしていくので、時間との関わり方を意識していくといいと思います。ワークショップのオリンピックというテーマは難しかったと思いますが、どんな仕事でも難しいテーマは出てきます。マイナスなところをどれだけ自分の中で楽しみながら取り込んでいけるかがクリエイターとして大事だと思います。」