PLEX PROGRAM REPORTプレックスプログラムレポート

テーマ:「かたちと理由」

NOSIGNER代表

太刀川 英輔 氏Eisuke Tachikawa

PROFILE
NOSIGNER 代表。デザインストラテジスト。慶應義塾大学特別招聘准教授。ソーシャルデザインで美しい未来をつくる(デザインの社会実装)発想の仕組みを解明し変革者を増やす(デザインの知の構造化)この2つの目標を実現するため、次世代エネルギー・地域活性・伝統産業・科学コミュニケーションなど、SDGsに代表される分野で多くのデザインプロジェクトをマルチセクターの共創によって実現。プロダクト・グラフィック・建築・空間・発明の領域を越境するデザイナーとして活動する。グッドデザイン賞金賞(日本)・アジアデザイン賞大賞(香港)など100以上の国際賞を受賞し、またグッドデザイン賞・ Design IntelligenceAward・WAF(世界建築フォーラム)など多くの国際賞の審査委員を歴任する。主な仕事にOLIVE・東京防災(東京都)・山本山・横浜DeNAベイスターズ・YOXO(横浜市)・MOZILLA FACTORY・aeru・越前漆(鯖江市)など。また、デザインや発明の仕組みを生物の進化から学ぶ「進化思考」を提唱し、デザイン教育者として日本の大企業・行政・社会起業家のセクターの中に変革者を育成している。東京デザインプレックス研究所プレックスプログラム登壇。

第1部:講義「かたちと理由」

講義1

今回のプレックスプログラムはNOSIGNER代表、太刀川英輔さんです。5 回目の登壇となる今回ですが、会場には多くの学生が太刀川さんのお話を聞きに集まっています。太刀川さん率いるNOSIGNERはソーシャルデザインイノーベーション(社会に良い変化をもたらすためのデザイン)を生み出すことを目的とし、活動しています。東京都から配布された防災の手引き「東京防災」は、実は太刀川さんのデザインです。東京に住んでる方は一度は目にしたことがあるのではないでしょうか。今回は太刀川さん流のアイデアの創出やデザインの文法などについてご教授いただきます。

講義2

良いデザインとは?学生の1 人が太刀川さんにそう尋ねます。そもそもいいデザインに正解はなく、自分なりの定義を持つことが大事だと説く太刀川さん。そしてもちろん太刀川さんにも自分なりの定義があり、それは「形を使って関係を良くすること」だと太刀川さんは言います。「形は周りにあるものと密接に関係しています。だから形にするというのではなく、形を作りその形が生み出す関係性を最小の記号で作ることを大切にしています。」という太刀川さん。そんな太刀川さんが以前に手がけた「The Moon」というLE D ライトは形と関係がダイレクトに繋がっている良い例です。

講義3

また、目的を拡大しながら適合させるようなデザインをすごく意識しているという太刀川さん。では太刀川さんはいつもどんな風にアイデアを出し、どうデザインしているのか。今回は誰もが知りたい太刀川さんの頭の中を特別に覗かせていただきました。太刀川さんはアイデアの発想において、「進化思考」を用いると大きなヒントになると言います。「進化思考」とは、そのものの変化や由来を体系化する方法のこと。そんな「進化思考」について、どうアイデアの発想に取り入れていくのか。太刀川さんがこれまで手掛けられたお仕事などを例に紹介していただきました。

講義4

1.進化図から狙いを定める:一つ目の方法として進化図を用います。新しい乗り物を作ることを例に考えてみると、紀元前35 世紀に車輪が発明、そこから派生して馬車や車椅子などが誕生します。全く新しい乗り物はまず作れません。だからこそそういった系譜を理解し、何が付け加えられ、何が淘汰されていったのか、細かい部分まで観察していくと人間の欲や穴が発見できます。2.融合の可能性を探す:人工物は生物と違って何にでも融合できます。だから色々と試してみることが大事。しかし、ただ融合するのではなく、いかに関係性を変えないまま記号を減らすか、いかにまた関係性を増やして記号をそのままにキープするか、つまりはシンプルなものになっているかどうかを考えながら行うことが重要です。

講義5

3.解剖することで理解する:わからないものは、解剖することにより理解できることがあります。解剖していき、それを分けていくと一つ一つに目的や理由があることや、その目的の集合で物が成り立っていることに気づきます。そうやって既存のものを分解してそこからアイデアの発想のヒントを得ていく、いわゆるリバースエンジニアリングという手法がとても役に立ちます。4.変形によって適応する:魚の形は基本的にはどれも同じで、ちょっとだけ形が違うだけで数多くの種類に分けられています。このように変形によって多様性が生まれることは、デザインにおいても同じだと思うので、いろんなものを変形させてみることが大事です。

講義6

5.色と質感によって適応させる:スズメバチの配色と工事現場のサインの配色。どちらも危険なイメージがありますが、これは偶然ではありません。私たちは生命にプリセットされて、そういった色やパターンに対してどういうメッセージを受け取るかは、私たちの頭023の中にあったりします。だからそれをどう適応させるかがデザイナーに必要なことです。6.美しいパターンを知る:私たちは何か形を作るときにそこにある種のパターンをみています。毎回そのプロジェクトのための特殊な物を私たちは作っているけれど、世の中には数は多くないけど普遍的な形というのがあって、その普遍的な形との距離感で新しい物が生まれたりしています。だからそんな誰もが共感できるような美しいパターンを知る事が大切です。

講義7

7.力学の最適を意識する:紐などの両端を持って垂らしたときにできる曲線、いわゆるカテナリー曲線は重力が生み出す形で、その美しさから建築構造物に適応した多くの例があります。このように、人は重力に拮抗しているので、その重力や何かしら私たちが感じる力に対してどう付き合っていくのか無意識に判断しています。そういう力の流れの向きは凄く美に影響してくるので、この事を意識するのとしないのとでは考え方に大きく差が生まれます。8.革新とは流動すること:美とは何かが動き始めた瞬間に発露し、そこにおいてのみ多様性に出会うことがあります。だから定常的にならず、動を意識してみてください。

総評

今回の太刀川さんの貴重なお話は、今後のデザインの参考になったのではないでしょうか。最後に感想をいただきました。「今日の話はアイデアの出し方に凄く参考になると思います。進化図を書いてみたり、融合、分解させてみたりなど…。ぜひやってみてほしいです。デザインや発明など、僕らは僕らを進化させるためにものを作ってるんだと思うんです。だからこそ進化図に位置する我々を一歩前に進めてあげられる、そんなデザイナーになってください。」