PLEX PROGRAM REPORTプレックスプログラムレポート

テーマ:「グラフィックデザインという仕事」

アートディレクター/グラフィックデザイナー

久能 真理 氏Mari Kunou

PROFILE
武蔵野美術大学 造形学部空間演出デザイン学科卒業。yotsugi yasunori incorporationを経てgood design company 入社。2011年独立。商品開発から、CI、パッケージデザイン、エディトリアルデザイン、webなど、幅広くアートディレクションを手がける。主な仕事に、新文具ブランド「grand jeté」(マルマン)商品企画を含むブランド立ち上げ、台湾の漢方医院・薬局「意一堂中醫診所」リブランディングプロジェクト、アナスイ「ANNA SUI ×7MANGA」商品企画を含む全体のアートディレクション、ラフォーレ原宿「北欧 CHRISTMAS MARKET in LAFORET 」、伊勢丹とルミネによる共同クリエイション企画「LUMITAN」、Kanebo「LISSAGE」web 用ビジュアルのアートディレクション、Hey! Say! JUMPカレンダー2016/2019、Kis-My-Ft2カレンダー2017、SexyZoneカレンダー2018、『GRAND HYATT TOKYO とっておきの朝食レシピ』装丁デザインなど。東京デザインプレックス研究所プレックスプログラム登壇。

第1部:講義「グラフィックデザインという仕事」

講義1

プレックスプログラム、本日の登壇者はアートディレクター久能真理さんにお越しいただきました。今回は2回目の登壇です。久能さんの手がけるデザインは女性心をくすぐるものが多く、特に女性の学生たちは今回の開催を心待ちにしている様子です。まずは久能さんの自己紹介から始まります。武蔵野美術大学出身の久能さんですが、出身学科は実は空間演出デザイン学科です。空間の分野から、グラフィックの分野の道へ進むために、久能さんは学生時代グラフィック系の事務所でアルバイトをしたり、空間演出とグラフィック表現の融合を試みた作品を作ったり、努力されていました。

講義2

大学卒業後、晴れてグラフィックデザイナーとして就職した久能さんは、学生時代のアルバイトの経験があったことから、即戦力として活躍されていました。3年働いた後、gooddesigncompanyへ転職。同年代のデザイナーが多く在籍していたことや、代表の水野学氏のデザインワークを間近に見ていたことなど、当時は刺激がとても多かったと久能さんは話します。この時、久能さんが強く印象に残っていたのは、「簡単に諦めるな」という水野さんの言葉とその姿勢でした。第一線で活躍するプロの仕事の仕方を間近で見ながら働けたことは、とても大きな財産になったそうです。

講義3

独立後、条件に恵まれた仕事ばかりではない中、久能さんは一つの依頼に対して真摯に向き合って妥協せずお仕事をされてきました。時には、潤沢ではない予算の中でデザイン制作をする場面もあります。例えば、撮影予算がとれずに既存写真を使う前提でデザイン制作の依頼があったケースでは、撮り下ろした方が良いものが出来ると判断し、その予算を確保するために会議室での撮影を提案したこともあったそうです。良いものを作るために諦めない姿勢や粘る努力は、前職からの経験が生きているようです。とても柔らかな口調で穏やかに話す久能さんですが、やはり心は熱く、デザインに対する思いの強さを感じます。

講義4

そうして続けるうちに、世に出た仕事や関わっ た人、それを見た人を通じて次の仕事の話し が来るなど、一つひとつの仕事が確実に次に 繋がっていったと久能さんは話します。意外 にも、未知の分野である男性タレントグルー プのカレンダーのデザイン依頼が来たことも。 最初は戸惑ったそうですが、結果的にファンの 間で話題になり、久能さん自身、とても楽し めた仕事になったそうです。「思い込みや固定 観念にとらわれずに、自分で面白い方向へ全 力でもっていこうとすれば、思わぬ展開を見せ ることがわかりました。」と振り返ります。その 他にも幅広く手掛けたデザインワークを紹介 され、あっという間に前半は終了しました。

第2部:ワークショップ「ステーショナリーブランドの新商品提案」

ワークショップ1

後半は久能さんからのお題をテーマに、ワークショップを行います。久能さんが商品の企画デザインも含めてアートディレクションを行った新しいステーショナリーブランド「grandjeté(グランジュテ)」、このブランドのさらなる新商品についてアイデアを提案していきます。久能さんからは「皆さんが普段『こういうのだったら使いたいな』と思うように、あまり硬く考えずに考えてもらえればいいですね。」とのこと。ただし、一つ押さえておきたいポイントは「元の商品のコンセプトから大きく外れないように」と付け加えます。学生の皆さんは、それを踏まえてグループで話し合っていきます。

ワークショップ2

「grandjeté(グランジュテ)らしさ」はどんなものか。若い女性に向けてつくられたこのブランドは、シンプルだけど、女性らしい、ありそうでなかったちょっと大人な女性向けのステーショナリーブランドとして生まれたそうです。バレエ用語で「大きな跳躍」を意味するグランジュテというブランド名も、コンセプトを捉える上でのポイントとなるでしょう。今回参加した学生も女性が多く、久能さんのようなアートディレクターに少しでも近づけるようにアイデアを積極的に出す様子が見えます。もちろん男性の学生も、女性目線の意見を考えながら真剣に考えています。アイデアをまとめ上げていよいよ発表が始まりました。

ワークショップ3

まず発表した学生は新しい「消しゴム」を提案しました。普通の消しゴムよりも細身にして、四角いロゴの形の穴を作り、穴から柄を透かして見せて可愛らしくあしらうというものでした。久能さんからは「ロゴをつかって穴をポイントにしたり、スリムにするのは女性ぽくていいですね。ただ、この穴の目的が装飾だけになると勿体無いので、そこに面白い意味を込められたらいいと思います。」とコメントいただきました。他にも、付箋やペン、万年筆、さらにはパソコンケース、お弁当箱、水筒、トートバックなど、文房具の領域を超えた発表まで飛び出しました。「文房具を超えた壮大なプロジェクトになっていますね」と久能さんもアイデアに驚いていました。

総評

最後に久能さんから総評をいただきました。「ワークショップに関しては、ここに来るまで、皆さんがどういう観点でアイテムを見つけてくるのか楽しみにしていました。日頃文具に抱えているストレスに対して考えているのが興味深かったですね。とても面白かったです。デザインのきっかけは身近なところから生まれることが多いので、日常で使うものからアイデアを考えていくといいのかなと思います。それから、デザイナーの仕事は意外にも体力勝負の面もあります。皆さん今のうちに体力を培って、今後元気に働いてもらえたらと思います。デザインの仕事に限らず、簡単に諦めずに継続することで見えてくることもあると思います。頑張ってください。」久能さんから学生へ激励をいただきました。