テーマ:「地域産業とデザイン&プロデュースⅢ」
セメントプロデュースデザイン代表
金谷 勉 氏Tsutomu Kanaya
- PROFILE
- 京都精華大学人文学部を卒業後、企画制作会社に入社。広告制作会社勤務を経て、1999年にデザイン会社「セメントプロデュースデザイン」を設立。大阪、京都、東京を拠点に企業のグラフィックデザインやプロモーション、商品開発のプロデュースに携わる。2011年からは、全国各地の町工場や職人との協業プロジェクト「みんなの地域産業協業活動」を始め、600を超える工場や職人たちとの情報連携も進めている。職人達の技術を学び、伝える場として「コトモノミチ at TOKYO」を東京墨田区に、大阪本社に「コトモノミチ at パークサイドストア」を自社店舗展開。経営不振にあえぐ町工場や工房の立て直しに取り組む活動は、テレビ番組『カンブリア宮殿』や『ガイアの夜明け』(テレビ東京系列)で取り上げられた。各地の自治体や金融機関での商品開発講座を行い、年間200日は地方を巡る。
第1部:講義「地域産業とデザインプロデュース」
講義1
今回で通算4 回目のご登壇となりました、セメントプロデュースデザイン代表取締役の金谷勉さんにお越しいただきました!金谷さんの経歴からプログラムはスタートします。金谷さんはもともと、大学はデザイン系の学部出身ではなく、通常の文系学部を卒業されました。もともとデザイン畑にいなかったと話す金谷さんですが、その後企画デザインの会社を経て業界で働くことになります。28 歳の時に、資金はほとんどない中でも一念発起で会社を退職、セメントプロデュースデザインを立ち上げました。18 年経つ現在、デザイン業界も変わってきたと金谷さんは続けます。18 年で手がけてきたお仕事の紹介を交えながら、講義は進みます。
講義2
ブランディング、パッケージなどのデザイン制作や、異業種交流会などの「機会」「場」を生むデザインなど、様々なお仕事をこれまでされてきましたが、金谷さんは「言われた(頼まれた)仕事は1だけど、われわれはそれを100、200 にして返す」と話します。セメントプロデュースデザインでの仕事は、依頼されるものだけではなく、自社でものづくりを行い、商品として販売しているものもあります。なぜ、デザイン会社なのにものづくりを始めたのか、それは受注型の仕事が減ってしまったときに、自社での収益安定を立てるためのものだったと話します。ただ、しばらくは、なかなか成長していかないジレンマがありました。
講義3
ものづくりに対する知識やノウハウがまだ当初なかったことで、コストや資金面で厳しい状況であったと金谷さんは話します。そういった中、同時に自分たちが今まで知らなかった、ものづくりの現場の実情も目の当たりにしてきました。最初は、自分たちが作りたいという思いで作ってきましたが、次第に増えていったのはその土地で働く人たちの悩みや苦しみなどの相談でした。だったら一緒に私たちとできないか、ものづくり事業者と手を組み「次へ繋ぐこと」のデザインが始まったと金谷さんは話します。「最初は自分たちが何とかしていかなければならないという思いでやってきたことが、結果的にこうなったという感覚です。こんな風に発展していくと最初は思っていませんでした。」
講義4
地域産業の開発、伝統工芸の再生を目指した、数多くの事例を交えながら、金谷さんからは地域産業開発商材の普及や振興における課題についても触れました。ただ見た目がいいものにデザインし直すだけでは、モノは売れないしコストだけが生まれる可能性が高くなります。形の美しさやデザインのバランスだけ整っていても「事業者の与件要素」を満たしているわけではありません。求める経営の方向やスタイルに必要なデザインを考える必要があると金谷さんは話します。そのためには、企画・流通・伝承の視点からものづくりを行う必要性をお話されました。「今の時代に柔軟に対応できることが大事。製造側とデザイン側が『きちんとした関係』で存続できる方法がまだまだあると僕は考えます。」
第2部:ワークショップ「五箇山の和紙を使用した商品企画」
ワークショップ1
講義を終え、ワークショップへと移ります。今回は金谷さんから、プログラム開催前に事前に課題が出されていました。「和紙を使用した商品企画」と題し、受講生には和紙の特徴や歴史などのリサーチを事前にしてもらっています。また、金谷さんから商品企画の前提として、「高級百貨店で販売」を条件に挙げました。このことを踏まえた上で、受講生は商品企画を考えてきています。ここでの発表で、良い企画が出て来れば、商品化にもつながるかもしれません。売り場として想定される百貨店へ実際に行き、リサーチしてきた受講生も多く、このワークショップに対する気合いが感じられます。
ワークショップ2
金谷さんの方から、今回のワークショップで着目したい点をあげてくださいました。まずプレゼンの段階で、「電話で伝えても興味を持ってもらえるくらいの企画」が必要と金谷さんは話します。また、その商品は誰かの手に渡ったあとにその人の生活につながるものなのか、商品として大型発注ができるものなのか、伝統工芸の技術継承に必要な若手の育成の役割は果たすのか、これから安定して売れるために必要なことが、様々な立場から存在します。みなさんのプレゼンは、どれだけこれらが反映されているでしょうか。各グループごとに、それぞれ自分の考えてきた企画を発表してもらい、そのグループ内で評価が高かったものを代表で発表してもらいます。早速プレゼンスタートです。
ワークショップ3
和紙という工芸品と、漆、陶器など別の伝統工芸を組み合わせた商品企画もあれば、まったく誰も思いつかなかった驚きの企画まで、様々なアイデアがプレゼンで発表されました。中には思わずどよめきと笑いが起き、金谷さんも思わず爆笑してしまう企画もあり、会場は盛り上がりを見せていました。「この和紙との組み合わせは、本当に和紙である必要があるのか、和紙の必然性をプレゼンで盛り込めばもっと良くなります」「この商品に対してストーリーをつけて加えればなお良くなります。」各発表に対して、金谷さんは一つ一つ企画の内容へ丁寧に改善点のコメントをしてくださいます。
総評
今回のプレゼンで発表された企画について、金谷さんは「違う技術とかけあわせようとしたその挑戦がとても良かったです」と話します。中には発表の中で企画のヒントになったものもあったそうです!最後に、金谷さんから総括をいただき本日は終了です。「工芸に携わる人が一番期待していることは、今まで自分たちが体験したことのない異業に繋がることと言えます。ビジネスによって今までの景色や考え方が変わる、これが町工場の人たちにとっても最大のテーマです。いろんな角度を変えてきて今回皆さんが発表されていたことに驚きました。本日はありがとうございました。」