PLEX PROGRAM REPORTプレックスプログラムレポート

テーマ:「思考の生成力~ インフォグラフィックの役割と可能性について~」

中野デザイン事務所代表/アートディレクター

中野 豪雄 氏Takeo Nakano

PROFILE
大学在学中、身体性に深く関わる書物の構造に惹かれ、製本、印刷、タイポグラフィなど、書物形成における理論と実践を学び、卒業制作にて書物の歴史的変遷と分布の視覚化を研究する。現在、株式会社中野デザイン事務所代表。主な仕事に「世界を変えるデザイン展」「DOMA秋岡芳夫展」「more trees展」「コニカミノルタプラネタリウム天空のデザイン」等がある。日本タイポグラフィ年鑑グランプリ受賞。世界ポスタートリエンナーレトヤマ、ラハティ国際ポスタービエンナーレ、中国国際ポスタービエンナーレ、JAGDA年鑑、日本タイポグラフィ年鑑、TDC年鑑入選。東京デザインプレックス研究所プレックスプログラム登壇。

第1部:講義「思考の生成力」

講義1

本日は中野豪雄さんにお越しいただきました。中野さんはグラフィックデザイナーとして活躍される中、大学で講義を持つ教育者としても注目を集めています。最近は執筆の仕事もされており、中野さんは「(デザインの)実践と教育と研究、この3つを柱として、いいインタラクションを起こしていくことが、ずっと前から自分がやりたかったことです。」と話します。今回も中野さんのレクチャーを早く聞きたいと楽しみにしている学生が多く集まりました。講義が始まり、冒頭で中野さんからデザイン思考の軸を二つ挙げられました。一つは「問題に答える」こと、もう一つは「問題に気付かせる」ことです。この二つを、事例を交えながら詳しく解説してくださいます。

講義2

初めに「問題に答える」デザイン思考を用いた事例として、目黒k美術館で開催された「ジョージ・ネルソン展」のグラフィックについてのお話です。ネルソンという人物の概要や歴史・作品等を交え、ポイントを押さえた解説が続きます。中野さんは「まず、自分がネルソン博士にならなくてはいけない」と、制作前の地道な情報収集の必要性を話します。「デザインを依頼される時点では『ポスターを作ってください』と、問題点や繋がりはぼやっとしています。ここをクリアにすることで初めてデザインが生まれる。」「全てが繋がる瞬間を探るということが、デザインのすごく面白いところだと感じます。」展示の内容とポスターやチケットが、無理やりではなく自然と繋がっている状態を探る作業が仕事です、と中野さんは続けます。

講義3

次に、「問題に気付かせる」事例として、凸版印刷の企画展「グラフィックトライアル」にて展示された作品「TransitionalTopics2011.3.11-2015.3.11」についてお話しくださいました。作品で印刷表現されているのは、東日本大震災発生後から4年間での、人々の話題の時間的推移と変化をインフォグラフィックで表したものです。いわゆるビックデータを、視覚的にポスターとして表現されたこの作品。なんと今回中野さんが現物を持ってきて見せて下さいました!約15種の版を使った重ね刷りなど、印刷技術もさることながら、震災後人々の話題が震災から離れていく様子をショッキングに表すグラフィックに、学生たちも釘付けになっています。「人間には知識欲があります。ちょっと面白そうというスイッチを押してあげる、この機能がインフォグラフィックにはあります。」

講義4

インフォグラフィックの役割として、断片的な身の回りに溢れた情報に、文脈を与えることと話します。文脈をもたせた情報に対して、人は能動的に知ろうとし、価値が生まれます。中野さんの問題意識として、グラフィックデザインは議論を誘発するメディアになりうるか、その可能性を探っていると話します。また、「デザイン=問題解決」という一般的な認識について、中野さんはこう付け加えます。「デザインは問題解決になりうるものですが、問題提起としての機能も持ち合わせています。問題解決と問題提起の間を常に動き続けることがデザインの役割と考えます。」「デザインの思考とは、問題解決と問題提起を両輪にして思考することである。」という言葉を結びに講義は終了しました。

第2部:ワークショップ「自分の人生のインフォグラフィック」

ワークショップ1

後半のワークショップは、実際にインフォグラフィックを作ってみよう、というものです。中野さんも初の試みという、作成するインフォグラフィックのお題は、「自分の人生」。「自分の人生を書いて、さらにそれをみんなの前で語ってください。」と、用意されたものはトレーシングペーパー5枚と、縦軸と横軸が書かれたグラフの台紙。自分の人生を語る上で最も重要なキーワードを5つ挙げ、1つのキーワードに対して1枚、人生の時間軸に合わせてバイオリズムの曲線グラフを描いてもらいます。5つのキーワード、それぞれ5枚のグラフを書いたら、5枚のトレーシングペーパーを重ね合わせます。

ワークショップ2

例として、実際に中野さんがご自身の人生をグラフに表して学生に発表してくださいました。発表中、グラフを作成する注意点として中野さんから、折れ線グラフではなく曲線で記入してほしいと要望がありました。グラフを作成する人の意図が、その曲線に現れるためだと話します。グラフを見ながら中野さんの人生を、学生も興味深々で聞いています。人によって人生いろいろ、1枚1枚単体のグラフで見ても面白さはありますが、最後5枚重ね合わせた時にまた違った姿を見せる面白さもあると話します。「このキーワードとこのキーワードを重ねると、この時期はこんな時期だったとわかる…等、重ねるキーワードによって自分の人生の新しい解釈も生まれ、自分でも気づかなかった発見ができることもあります。」

ワークショップ3

レクチャーを受けた後、学生たちも自分の人生をグラフに描いていきます。描き終わった後で早速発表してもらいました。人によって、5つ挙げたキーワードは実に様々。「恋愛」と「仕事」のグラフを重ねると、曲線が真逆というある学生のグラフの発表では、「恋愛が全然上手くいかないときは、逆に仕事がはかどっているんです。」という解釈。これには会場もどっと笑いが起きました。また別の学生は、キーワードが「電車」「車」「飛行機」「船」「自転車」というように、全て乗り物でグラフを作成。「乗り物がとにかく好きなんです。」と、それぞれのキーワードに合わせて人生を語ってくれました。各発表を聞きながら「めちゃめちゃ面白いですね!」と中野さんも楽しそうにされています。

総評

最後に中野さんから講評と総括を頂きました。ワークショップで体感してほしかったのは、頭の中で情報を整理するという技術だと話します。キーワードは「細分化」と「類型化」。自分の人生を5つのキーワードに「細分化」することによって、人生という曖昧なものが具体性を帯びてくると中野さんは話します。また、キーワードごとに描いたグラフの組み合わせ方によって語り方が変わるのは、一回細分化したものを改めてまとめるという「類型化」を行っていると言えます。デザインを考える時に同じ作業をすると、物事の本質が見えてくると中野さんは話します。「ワークショップでやったことを覚えていただきながら、皆さんには次に生かしてほしいなと思います。」