PLEX PROGRAM REPORTプレックスプログラムレポート

テーマ:「届けにくいものを届ける方法」

BACH代表/ブックディレクター

幅 允孝 氏Yoshitaka Haba

PROFILE
1976年愛知県津島市生まれ。有限会社BACH(バッハ)代表。ブックディレクター。未知なる本を手にしてもらう機会をつくるため、本屋と異業種を結びつけたり、病院や企業ライブラリーの制作をしている。代表的な場所として、国立新美術館『SOUVENIR FROM TOKYO』や『Brooklyn Parlor』、伊勢丹新宿店『ビューティアポセカリー』、『CIBONE』、『la kagu』など。その活動範囲は本の居場所と共に多岐にわたり、編集、執筆も手掛けている。著書に『本なんて読まなくたっていいのだけれど、』、『幅書店の88冊』、『つかう本』。『本の声を聴けブックディレクター幅允孝の仕事』(著・高瀬毅/文藝春秋)も刊行中。愛知県立芸術大学非常勤講師。東京デザインプレックス研究所プレックスプログラム登壇。 www.bach-inc.com

第1部:講義「届けにくいものを届ける方法」

講義1

本日のプレックスプログラムは初の登壇となる、BACH代表、幅允孝さん。幅さんはブックディレクターとして、未知なる本を手にしてもらう機会をつくるために、本と異業種を結びつけることや、病院や企業ライブラリーの制作をしています。編集や執筆も行っていて、本の居場所と共に、活動内容は多岐にわたります。ブックディレクターは、日本では幅さんが登場して初めて確立された職業です。ブックディレクターのお話を通して、「届きにくいものを届ける方法」の考え方を学びます。自身も大の本好きである幅さんのユーモラス溢れる講義に、学生はどんどん惹きつけられます。

講義2

「誰かが、知らない本を手に取ってぱらぱらめくる。少し読んでまた本棚に返す。そうすると少しずつ本に熱が溜まっていく気がするんですよね。本の持つ微熱というか。人が来なくなったことで、本来とても面白い場所なのに、本屋が冷めた空間になってしまったことを感じていました」元々書店員として働いていた幅さんは、本がネットで購入できる時代になり、「来客数の減少」に何より不安を感じました。本屋に人が来ないのであれば、人のいる場所に本を届けようと思ったことが、「ブックディレクター」という職業に繋がったきっかけです。

講義3

自分の届けたいものが、世の中全般においてどういう状況であるか知ることが、伝達における第一歩だと幅さんは語ります。「人と本にもう一度よい出会いをつくり、1ページ目をめくってもらう」までがブックディレクターの仕事です。本は手に取った人の数だけ読み方があるからこそ、手に取る機会までを提供できれば、そこからは個々が自由に本と向き合えます。知っている本しか探さない、検索に引っかからなかった本とは永久に出会えない。そんな時代だからこそ、未知なる本との出会いをつくり、手繰り寄せることを大切にしていると知りました。

講義4

「好きな本をただお勧めしても、それはおせっかいにしかならない。届けたい相手が両手を伸ばして、届く範囲内に本を配置することを常に考えています。」ライブラリーを実際に利用する人たちにインタビューをして、距離を縮める。そうすることで、誰のための本なのかが見えてくるそうです。ブックディレクターは「本棚を編集する」という考え方が大切だとのこと。選んだ本が何冊も連なることで、とても雄弁なメッセージになりえます。選んだものをどう差し出すか、差し出す場所はどうディレクションするのか。常に目の前にいるあの人のために、本を届けたいという思いを持ちディレクションしていくことで、「届きにくかったものが相手に届くきっかけになる」と学びました。

第2部:ワークショップ「ライブラリーをつくる」

ワークショップ1

後半はワークショップです。本日のテーマは「具体的な場所を指定して、ライブラリーをつくる」です。4つの異なる設定場所があり、班ごとに1つを選択します。ある班は「沼津にできる新設の保育園」という設定ですが、その他にも「東京ミッドタウンの中にある銀行の支店」や動物園、老舗旅館などがあり、異業種と本のコラボレーションとなっています。これらは実際に幅さんが過去にディレクションしたもの。個々の班がそれぞれの意見を出し合っていきます。

ワークショップ2

本当に限られた時間の中で、学生たちは精一杯案を考えます。「どのようなユーザーなのか?その場所に合う本棚の形や色は?そして来る人たちに読んでもらえる、手の届く範囲の本とは?」幅さんがお話して下さったことを頭に入れながら、話し合いは続きます。本1冊の並べ方や置く位置、細かなところまで理由付けで意見を出し合います。それぞれのチームが真剣に、且つとても楽しそうに話し合う声が響いていました。

ワークショップ3

沼津にある保育園だから海関係の本をたくさん置きたい。お迎えに祖父母の方も来ると考えて、3世代で楽しめる絵本を提供する。ミッドタウンという土地柄だから空間自体もスタイリッシュに!旅館だから温泉でも本を読めるように防水カバーを付けてのんびりしてもらいたい。など。同じテーマであっても、全く違うライブラリーが創造されていることに驚きます。「温泉での防水カバーの件は気が合いますね。実際に私もつくったんですよ。どの班も、誰に向けたライブラリーなのかをきちんと考えられていることが素晴らしいと思います。」前半での講義の成果により、幅さんも大絶賛の内容となりました。

総評

「どのようなライブラリーにするか、どのような本を置くか、最初の土台的なものは自分の中から湧き出すべきものだと思っていて、まずは自分の願いをベースにします。インタビューをすることによって実現は厳しそうだなって思い知らされることもありますが、こうありたい、という気持ちが最初にあれば修正は可能です。それぞれ目指す職種は違いますが、いつか一緒に仕事をしたいです。」幅さんの丁寧な話し方と、心にストンと落ちる言葉の表現、使い方に感銘を受けました。