PLEX PROGRAM REPORTプレックスプログラムレポート

テーマ:「依頼の半歩先を想像する」

minna/デザイナー

長谷川 哲士 氏Satoshi Hasegawa

PROFILE
2009 年minna 設立。2013 年、株式会社ミンナとして法人化。角田真祐子と長谷川哲士を中心とする、みんなのためのデザインチーム。【みんな】のために【みんな】のことを【みんな】でやるをミッションに、グラフィックやプロダクトなどのジャンルにとらわれず、領域を越えて幅広くデザインを行う。グッドデザイン賞、日本パッケージデザイン大賞金賞等、他受賞多数。東京デザインプレックス研究所プレックスプログラム登壇。 http://minna-design.com/

第1部:講義「依頼の半歩先を想像する」

講義1

本日のプレックスプログラムの講師は、minnaの長谷川哲士さんです。長谷川さんはもともとインテリアを専門とされていましたが、minnaではグラフィック、プロダクト、空間など、領域を横断してデザインを手掛けられています。その根底には、分野を跨いでより良く伝えること、良い形にすることの全般に役立ちたいという想いがあるそうです。minnaの事例を見るとカラフルでポップなビジュアルが多い印象を受けますが、それはどれもクライアントの課題を解決するため。それぞれのデザインから、〝地域と老人ホーム〟や〝農家とお客さん〟などの関係性が自然と見えてきます。長谷川さんは「ハッピーなデザインで、みんなをつなぐ」デザイナーです。

講義2

「現状でよく起きているデザインの依頼には、問題があることが多い」と長谷川さん。例えば、クライアントが「宣伝のためにポスターが必要だ」と考えたことに対して、デザイナーもそれを疑わずにただポスターを作っただけ、という無責任な事例が世に出ていることがあるのだとか。病院に例えると、患者が自分で病名を判断して診察を受けに行くような状態です。長谷川さんは、宣伝が必要になった段階で、手法を決める前に相談できる町医者のようなデザイナーが増える未来を目指しているといいます。「魅力的な可視化は確かに僕達のストロングポイントですが、想いを共有するために話し合うことから、店先の売り文句を伝えるところまで、一貫して責任を持つことが重要です。」

講義3

長谷川さんが原画展のアートディレクションと構成を行った『tupera tupera のかおてん.』を紹介してくださいました。tupera tuperaさんの言葉「原画は途中の段階。出版された状態がマックス」に衝撃を受けたという長谷川さん。よくある額縁は使わずアクリルでフレーム線を消したり、曲線にデザインし直すなどの工夫で、展示空間自体が絵本のように見えるような没入感を重視してデザインをしました。急遽、顔型の展示台にキャプションの追記が必要になった際には、ホクロに見立てた小さなボードを制作したり、展示物をルーペ型にするなど、展示を楽しめる工夫が随所に散りばめられています。

講義4

落花生メーカーのブランディングでは、既存のロゴやパッケージをクライアントのニーズに合わせて一から整え直しました。また、農家さんの伝えたいことがお客さんに効果的に届くよう、Webサイトのコンテンツをニュースレターに採用するシステムも作りました。そのニュースレターの印刷にあたっては、クライアントの持つプリンターでクオリティが担保できるデザインを提案されたそうです。「何か新しい試みに挑戦し始める期間は、表現したいことと実現できることのバランスをとることが重要」と長谷川さん。次年度の原料を確保する予約注文システムを考案するなど、生産の仕組みの段階からデザインを行うことで、更なるビジネスの展開に結びつけています。

第2部:ワークショップ「依頼の半歩先を想像するブランディング」

ワークショップ1

講義の後半は、「依頼の半歩先を想像する」ワークショップを行います。学生たちは長谷川さんが実際に手がけたお仕事の課題解決に取り組みます。依頼は、関西で展開しているフェアトレードのお店「シサム工房」を関東に出店するにあたってのリブランディング。関東に出店する店舗名はvote forに決まっており、今後数年かけて関西の店舗もvote forに統一していく計画です。学生へのお題は、リブランディングするもののひとつである「ショッパー」。ショッパーを作るには何万枚というロットが必要になるため、たとえ店名が違っても全店舗で同じものを使用しなくてはなりません。このような条件のなか、学生たちはどのようなショッパーを提案するのでしょうか。

ワークショップ2

学生たちの発表を紹介します。まずは既存のショッパーを使ってロゴ部分をシールやスタンプで変えるアイデア。長谷川さんは「デビューしたてのものがシールで上貼りしてあるとチープに見えるため、シールのデザインも大事」とアドバイス。フェアトレードのはぎれの布のエコバックを買ってもらうという案には「フライングタイガーのように買わせるもの、可愛くて種類があってつい買っちゃうものにするのはありだよね」とコメントをいただきました。エコバッグの無料配布というアイデアもありましたが、ビジネス面での裏付けが重要で、収支の仕組みもセットで提案できるといいそうです。

ワークショップ3

長谷川さんが実際にデザインしたショッパーについて解説していただきます。1店舗のみのショッパーを作ることはロットの関係で不可能ですが、長谷川さんはどちらの店舗もフェアトレードのお店であることに着目し、全店舗で使用できる店名の入らないショッパーを提案したそうです。持ち手の延長を握る手のイラストが印象的で、持つことで地球の裏側の誰かと手を繋いでいるように見えるデザインです。クライアントには、「見たときに何だろう?と気になるショッパーで、さらにフェアトレードの店だと第一に伝えることが重要」と説得をしたそうです。言語なしで伝わるこのデザインは、海外の雑誌等でも数多く取り上げられています。

総評

最後に総評をいただきます。「依頼の半歩先というテーマでしたが、デザイナーは言われたことだけをやる仕事ではなくて、より良くするために条件を読み解いたり、読み替えたりする必要があります。相手のやりたいこととその想いに応えられるように、少し無理矢理にでも目標を達成できるように考えています。本当に相手がやりたいことを思いやって進めていくことが重要です。今は人対人が重要な良い時代だと思いますので、皆さんもここの仲間も含めて、出会いを大切に仲良くしてもらえればと思います。」長谷川さん、本日はありがとうございました!