デザイナーに求められるのは “ 気づく力 ”
幼少の頃から、何かをつくって楽しんでいたという記憶があります。大学に進学する際にも、「ものをつくる」ということが学べるんだと思って、美大進学を決めました。大学初年度は、周囲に絵の基礎能力の高い人たちがたくさんいて、挫折を味わいましたね。でも、人とは違う着想でつくる作品が評価されるようになって、誰も知らないようなこと、考えてもみなかったことを素材にして表現していくことが自分の強みになるとわかったのです。
今は、その気づく力が自分の個性となって、社会につながっているという実感があります。大学卒業後は広告代理店でデザイナーをしていたのですが、オランダのクリエイティブエージェンシーに出向したことが、自分の大きな転機になりました。その会社は、自分について来た家族のことまで、気にかけてくれたんです。「家族の幸せが、あなたの幸せをつくる。自ら幸せを感じていないと、人を幸せにするクリエイティブはつくれない」と。デザインは、物事をよりよくするためにあるわけだから、社会がよりよくなるイメージを持つには、人の悩みに気づく心のゆとりが原点になるのだと、教えられたのです。それまでは休む時間も惜しんで仕事に没頭して、それが正しいと思っていた。仕事の向き合い方や、社会との関わり方、幸せの定義...オランダでの経験が、自分の価値観を大きく変えました。
それから、“ブランディング”すなわち、広告を打ち出す前の物事を整えることから、クライアントに寄り添いたいと思うようになり、独立。整えて、作って、伝えて、育てるところまでを担うクリエイティブを目指しています。これから、プロのデザイナーになるのであれば、色形をつくる力を磨くのはもちろん、気づく力や人の幸せを想像する力、人の悩みに寄り添う力が必要になるでしょう。社会がスピードを上げて動く時代だし、その中で人の選択肢もどんどん増え続けています。そのものの魅力にいち早く気づいて、いち早くカタチにし、人々が自分にとって何が一番大切なのかを表していくことが、デザイナーに求められるのではないでしょうか。世の中を俯瞰して、「こういうことを達成させる」という理想を創造できる人間になってもらいたいですね。