本は自分が自由であるための方法です。
この仕事をする前は書店に勤めていました。インターネットの影響を受けてなかなか人が本屋さんに足を運んでくれなくなった昨今、それであれば人がいる場所に本を持っていけないか、ということをいつも考えていました。そんな時に、当時所属していた会社がTSUTAYA TOKYO ROPPONGIのオープンに関わることとなり、それがきっかけで日本全国の書店や図書館を作るお手伝いをさせていただくようになったのです。
僕は、日本の書店に何か革新をもたらすとか、斜陽産業と言われる出版業界を救いたいとか、そんな大それたことは考えていません。自分にとって、この仕事は”朝起きるための理由”。自分が自由であるために、この道を選んだのだと思います。自分が楽しく健やかにいられるかどうか、それが僕の仕事の基本です。それでも、仕事でやっていくには、世間が求めているかどうかということも大事になってきます。自分と世の中の結び目をさがしているんですね。いつも。これから、異業種に就職しようと思っていたり、気になる職業がある人はぜひ、その業界や産業を冷静に見極めていく必要があるのではないでしょうか。業界がどこに向かっていて、自分がそこに滴を落としたら、その波紋がどう広がっていくのかを考えることが、自分の軸になっていくのだと思います。
デザイナーという職業を目指す場合は、自分の手でデザインができるか、ということを考えてみるといいのかな、と思いますね。例えば手元に電気がなかったとしても、頭の中にあることを自分の手で表現できるか?道具やシステムを自力でつくれるのか?そういう総合力がこれからのデザイナーには必要だと思います。そして、その職人技を持ち合わせている人が未来のデザイナーと言えるのではないかと思います。また、今は検索すれば何でもすぐに調べられる時代ですが、そこに敢えて時間とお金と手間をかけて情報収集し、血肉化していくことに価値があるとも思います。その過程の努力や苦労も含めて自分のものになりますからね。そういう意味で、あらゆる本はものづくりの役に立つ気がします。それが例えデザインに関係のない自然科学の図鑑だったとしても、その中に見つけた蝶々の飛ぶ軌道なんかが、巡り巡って新しいものづくりをバックアップする知識になるかもしれません。引き出しがたくさんあることは、とても豊かで素敵なことだと僕は思います。