ダイアログ(対話)まで担うデザインをつくりたい。
自分が学生だった頃、周りにはイラストだったり写真だったり、すでに“表現”を始めている人がたくさんいました。自分はバスケばっかりやっていて、表現できるものがなかったんです。劣等感もありましたけど、今になってみれば、そんな自分でよかった。頭が白紙に近い状態だったからこそ、見るもの触れるものすべてが新鮮でした。よくデザインやアートをやってる人には変わり者が多いといわれますけど、変わり者じゃないとアイデアが出せないわけではないし、自分が普通の人だからといって劣等感を抱く必要もありません。そんな自分が大きな影響を受けたのが、ブックデザインの授業でした。本の構造自体にまず興味を持ったんです。卒論は本の歴史をテーマにして、粘土板から現代の本までの年表をつくりました。
今も昔も自分は流行に疎いほうですが、対象の歴史や周辺を掘り下げることには妥協しません。どんどん掘り下げていくと、情報があふれかえる混沌状態になります。その中に身を投じることから始めるんです。この混沌状態を、自分なりの考えや哲学を持ちながら、秩序立てて整理していく。“デザイン=編集作業”といえるかもしれません。パパッとつくってしまうことはできない性分なんです。しっかり掘り下げてつくったものには、見る人使う人が潜在的に持っている知的欲求を刺激する力が宿ります。展覧会のポスターひとつにしても、見た人が「もっと知りたい」「行きたい」と思う欲求を刺激するんですよね。写真でも言葉でもない、抽象的な形で伝えるインフォメーショングラフィックスは、見る側のイメージを掻き立てる有効な手段です。仕事の依頼を受けて納品した後も、デザインを見た人が何を感じるか、ということまで僕は知りたい性分なんです。
例えば本は、買ってすぐに読んで書架にしまっておいて、10年後にふとまた本を開いたら新しい発見があったりするじゃないですか。それはまさに、本と読者の間でダイアログ(対話)が成立しているんです。デザインはコミュニケーションをつかさどるものですが、その後もダイアログとして残っていくものをつくることが、僕の目指すところです。