デザインは“好き”に集中できる仕事。
でも、“好き”を極めるには覚悟が必要です。
私の家系は、総じて仕事にのめり込むタイプの人ばかりで、皆職人気質。たとえば祖父は庭師の傍ら油絵を描いていて、私も幼少の頃から、美術教育に力を入れている学校に通っていました。自分がデザイナーの道に進んだルーツは、きっとそこでしょうね。将来的には、雑誌や書籍のデザインをしたいなと思っていました。でも大学を目指す際、美大という選択肢は考えませんでした。単に表現のノウハウだけを学ぶのではなく、さまざまなコトやモノにつながるデザインゆえに、広がりを持たせられればと感じたからです。そんな中、大学3年の時にグラフィックソフトにハマりました。手描きは苦手だけど、Illustratorを使えばキレイにまっすぐな線が引けて最高!と思いましたね。それから独学を重ね、卒業後は印刷会社のデザイナーになりました。
様々な学びがあり、楽しんで働いていましたが、リーマンショックの時、多くの先輩が解雇されたんです。自分の行く末もそうなるんじゃないか…と思って転職を決意。次に所属したのは化粧品会社で、商品パッケージから通販サイトに至るまで、会社のすべてのデザインワークに関わりました。
そこから独立したきっかけのひとつが、書籍の出版です。たまたま知り合いから「グラフィックソフトの書籍を執筆できる人を探している」と聞いたことが発端でした。出版後、アドビ社からお声がけいただき、Adobe Community Evangelistの初代メンバーに加わることに。そしてもうひとつのきっかけは、ライフプランのためにお金と時間を自由に使いたいと感じたからです。フリーランスの働き方は、プライベートと仕事の境を作らず、双方を楽しめる自分の性分と合っていました。たとえば猫が好きなら、猫に関連する仕事もできる世界です。だからこそ、“好きなこと”が多い人に向いている働き方かもしれません。
現在は、子育てとデザインを教える仕事を両立させていますが、“子育て一本”は向いてないだろうなとつくづく感じます。それは、ものづくりも、働くことも好きだから。デザインは、好きなことに集中できる仕事です。もちろん、好きなことを極めるのは想像以上に大変で、覚悟が必要。私は昔から計算が苦手で、そこから離れようとしてデザインの道に進んだという面もありますが、実際、デザインにはかなりの計算を要します。苦手なことが回りまわって必要になることもある中で「それでもやっていきたい」と思えるかどうか?デザイナーとは、そうした自問自答を続けながら取り組んでいく職業なのだと思いますね。