先人を真似るよりも、先人が賞賛された理由を考える。
自分の作業は、まず依頼者になりきることから始めています。たとえばミュージシャンのアートワークだったら、曲を聴いたうえでミュージシャンの人となりを自分なりに解釈する。解釈というより、憑依とか心酔に近いですね。こんな曲を作って歌う人がもし絵を描いたらこうなるだろうな、と。そうすると、相手のイメージに近いものをアウトプットしやすくなります。その人になりきるという意味では、役者に近いのかもしれません。その一方で、出来上がったものには自分のテイストも入るかたちになります。自分の作風は、“写真が持つ面白さ”と“写真を壊す面白さ”、双方をすり合せて模索する中で生まれたものだと感じていますね。
仕事において気にしている点は、作品を通して伝えたいことが、きちんと見る人に届いているかということ。例えばコアなファンを持つミュージシャンであっても、マイナー感にメジャー感を伴ったクオリティの作品ができると、ファンは喜んでくれることが多いですね。やはりこの仕事は、自分が作って嬉しいのはもちろん、他の誰か一人でも喜んでくれないと意味がないですから。自分と向き合いつつ、他人とも向き合うことがモノづくりにおいては大切だと思いますね。
若い人たちにメッセージを送るとするなら、「自己主張を客観視する」ことでしょうか。若い時分はエナジーがみなぎっているからしょうがないかもしれないけど、「大人になったら、もうちょっと上手く主張できるようになるよ」と常々感じます。だから今は、ガマンして大人の言うことに耳を傾けておいても損はないし、将来につながるかもよ、と。逆に「俺はこうしたい!」という鋼の意志があるなら、それはそれで徹底してほしい。
あとは、いろんな作品をみること。ただ作風をみて良いと感じ、それを真似る人がいますけど「この作家がなぜ時代の寵児になり、生き残れたか」まで考えるべきです。作家が出てきた時代背景やデザインの潮流、最初に世間に出るためにとった方法...そのアプローチの本質を真似るほうが賢明。その時代ごとに適切なアプローチがあるわけですから。