PROFESSIONAL MESSAGEプロフェッショナルメッセージ

遠藤 謙Ken Endo

PROFILE
慶應義塾大学修士課程修了後、渡米。マサチューセッツ工科大学メディアラボにて、人間の身体能力の解析や下腿義足の開発に従事。2012年博士取得。一方、マサチューセッツ工科大学D-labにて講師を勤め、途上国向けの義肢装具に関する講義を担当。現在、ソニーコンピュータサイエンス研究所研究員。ロボット技術を用いた身体能力の拡張に関する研究に携わる。2014年には株式会社Xiborgを創設、CEOに就任。2012年、MITが出版する科学雑誌Technology Reviewが選ぶ35才以下のイノベーター35人(TR35)に選出された。2014年ダボス会議ヤンググローバルリーダー。2020年には「Blade for All」プロジェクトを立ち上げ、子供たちに競技用義足の無料貸し出しなどを行う。

義足デザインで世界を変える。

僕が目指しているのは、身体に障害のある人がそのことをポジティブに捉えられる社会です。そのために、義足は基本的には「なじむデザイン」であるかどうかが重要になってきます。日常生活で使用する義足だとしたら、大体の場合好ましいのは街中で歩いていても義足だと気づかないようなデザインで、あらゆる動作が快適に行えるものが好ましいですよね。「なじむ」ものは、工夫が表に出ないので当たり前のように見えるのですが、見て義足とわからないものをつくることは、実は非常に難しいことなのです。

さらに、陸上競技で使用するアスリート用の義足である場合は、見た目を良くすることよりも早く走れる機能性が重視されますし、モデルがファッションショーで義足を履くとしたら、いかにかっこよくウォーキングできるかを目指すべきだと思うのです。つまり、足が無いことをネガティブに捉えるのではなく、義足を加えて“超越”できることになっていったら素敵だなと。例えば眼鏡がそうだったように、義足の技術やデザインの進化が偏見を薄めて、障害を補う機器からファッションアイテムになるような未来がやってきたらすごいですよね。

そして、そのことは日本はもちろん、世界にまで浸透していくようにするのが僕の目指すイノベーションです。発展途上国では、眼鏡でさえ一般化されていないところがあるので、義足はごく一部の人にしか届かないという現状があります。そもそも、義足というものがあることすらも知らない人々がたくさんいるのです。僕ら作り手は、良いものを作るのはもちろん、利用者の文化や宗教、生活スタイル、経済状況などたくさんのことを調べて、その上で普及するためにはどうしたらよいかを考慮しなくてはいけません。その環境にフィットする状態に近づけることが、本当の「良いデザインをする」ということでもあると信じています。そんな風にこれからも義足エンジニアとして、さらに多くの人を巻き込んで、世界を変えていきたいと思っています。