不完全なことで、作品と見る人の関係を保つ。
創作の源になっているのは、子供の頃に暮らしていた山口の里山の原風景です。鬼ごっこなどで藪や田んぼ、森の中を走り抜けているときに、目の前に次々に現れてはうわっと駆け巡っていった虫、葉っぱ、雨水、土、岩...。そうした自然のモチーフが大量に迫りくるレイヤー感というのかな。そんな感覚が、僕の作品のルーツになっているような気がします。ですから都会的なセンスでシンプルにものをつくるというより、コラージュのようにどこか猥雑で混乱しているデザインに惹かれるんです。
実際に作品をつくるときは、絵の中に一本線を入れたいなと思ったら、もちろんパソコンでやってしまえば何てことないんですけど、あえて先のちびた鉛筆で紙にぎゅうっと線を描き、それをスキャニングしてその中に置く。どんなデザインの中にも必ず、欠けたり汚れたり乱れたりしている不穏な要素を入れたいんです。どこかに不完全な要素があると、見る人は混乱しますよね。そして関心が持続し、ずっと作品を見てくれると思うんです。見る人は多くの情報を欲していると思うし、できるだけ発信側と受け手の間に長い関係が持てたらいいなと思っています。
いつか僕が死ぬとき、後ろをパッと振り向くと、自分のつくった作品が無限の長い列となって遠くの方まで見えている...そんな風になるといいなと思いながら創作活動を続けています。本、映画、テレビ、空間に関する仕事など、さまざまな創作活動を行ってきましたが、仕事の幅が広がれば人との出会いも増え、自分の世界が広がっていく楽しさがありますね。肩書はこれからもどんどん増やしていきたいです。
クリエイターは人生の前半は自分のために創作活動をすると思うんですけど、人生の後半は誰かのためにものをつくるんだと思います。これから勉強を始めるみなさんにも、いつか人のために創作できる喜びを感じてもらいたいです。そもそもアートに限らず、自分のためだけに生きるなんて、つまらないですもんね。