仕事を楽しむこと。それがやがて“革新”にたどり着く。
私たちのルーツは明治43年1910年、初代の祖父が始めた紋糊屋でした。生地を染める際、紋が染まらないように糊を置く専門の職人です。その後を継いだ私の父は、どちらかというと職人というよりアーティスト気質のある人物でした。紋章上繪師は着物に紋を入れる専門職ですが、色紙に紋を書いて額装したりと、当時としてはアバンギャルドなことに挑戦していたと思います。その中で私は、幼いころから家業を継ぎ、職人になるものだと何の疑いもなく受け入れていましたね。
しかし一方で、ご存知のとおり着物や紋の需要はだんだんと減っていました。ともすると、“数少ないお客さんの取り合い”に陥ってしまう。これではダメだと考え、新しい発想、新しい挑戦に取り組んでいきました。スワロフスキーのクリスタルの紋を入れたり、デニム素材の着物を作ったり......仕事のオファーがあるたびにワクワクして楽しむことが、革新につながるんだなと実感しています。だから、一緒に仕事をする息子とも、堅苦しい師弟の間柄では無くビジネスパートナーですね。仕事の時間を楽しむことは、良いものを生み出す原動力です。(波戸場承龍)
子どもの頃から紋が身近にありましたね。保育園から帰るのも、家ではなく両親が働く工房でしたから。今、振り返ってみると、それが自分の中での“美”の基準になっているなと感じます。実際、父の仕事を手伝うようになったのは19歳の頃です。その中で、データで納品する仕事があり、Illustratorで家紋を作成することになりました。同時に私たちのホームページも一新し、仕事の実績などの情報発信をすることで、さまざまな依頼が来るようになりました。私たちは、これまでにない市場を開拓していますが、もちろん根っこの部分は古いものが好きなんです。それを今の時代にどう伝えていくかを考えていくことで、今の私たちのスタイルが確立したといえますね。
よく「親父と24時間一緒にいるなんて考えられない」と言われますが、ものごとの価値観がとても似ているので、息苦しさはまったくない。逆に2人だからこそ成しえたんだなと思うことのほうが多いです。ネガティブにならず、いろいろな状況をポジティブに受け入れることって、とても大切ですよ。「言霊」という言葉がありますけど、ポジティブな考えや言葉を常に意識することで、人生は大きく好転すると思います。(波戸場耀次)