PROFESSIONAL MESSAGEプロフェッショナルメッセージ

波戸場 承龍/波戸場 耀次Shoryu Hatoba/Yohji Hatoba

PROFILE
紋章上繪師三代目・四代目。家紋を専門に墨と筆で描く職人として技術を継承し、2010年に工房「誂処京源」を構え「デザインとしての家紋」をコンセプトにIllustratorで家紋をデザインする事業を開始。商業施設や企業の紋意匠、個人の為の家紋を新たにデザインする他、様々なジャンルの企業と組み、家紋とプロダクトの新しい形を提案している。着物のデザイナーとしての一面も持ち、2014年からUNITED ARROWSより男着物のフォーマルウェア「京源の男着物」をプロデュース。日本文化の中で長い年月をかけて育まれてきた家紋文化を次世代に繋げる担い手として、様々なイベントや講演に参加するなど活動は多岐に渡る。東京デザインプレックス研究所プレックスプログラム登壇。

仕事を楽しむこと。それがやがて“革新”にたどり着く。

私たちのルーツは明治43年1910年、初代の祖父が始めた紋糊屋でした。生地を染める際、紋が染まらないように糊を置く専門の職人です。その後を継いだ私の父は、どちらかというと職人というよりアーティスト気質のある人物でした。紋章上繪師は着物に紋を入れる専門職ですが、色紙に紋を書いて額装したりと、当時としてはアバンギャルドなことに挑戦していたと思います。その中で私は、幼いころから家業を継ぎ、職人になるものだと何の疑いもなく受け入れていましたね。

しかし一方で、ご存知のとおり着物や紋の需要はだんだんと減っていました。ともすると、“数少ないお客さんの取り合い”に陥ってしまう。これではダメだと考え、新しい発想、新しい挑戦に取り組んでいきました。スワロフスキーのクリスタルの紋を入れたり、デニム素材の着物を作ったり......仕事のオファーがあるたびにワクワクして楽しむことが、革新につながるんだなと実感しています。だから、一緒に仕事をする息子とも、堅苦しい師弟の間柄では無くビジネスパートナーですね。仕事の時間を楽しむことは、良いものを生み出す原動力です。(波戸場承龍)

子どもの頃から紋が身近にありましたね。保育園から帰るのも、家ではなく両親が働く工房でしたから。今、振り返ってみると、それが自分の中での“美”の基準になっているなと感じます。実際、父の仕事を手伝うようになったのは19歳の頃です。その中で、データで納品する仕事があり、Illustratorで家紋を作成することになりました。同時に私たちのホームページも一新し、仕事の実績などの情報発信をすることで、さまざまな依頼が来るようになりました。私たちは、これまでにない市場を開拓していますが、もちろん根っこの部分は古いものが好きなんです。それを今の時代にどう伝えていくかを考えていくことで、今の私たちのスタイルが確立したといえますね。

よく「親父と24時間一緒にいるなんて考えられない」と言われますが、ものごとの価値観がとても似ているので、息苦しさはまったくない。逆に2人だからこそ成しえたんだなと思うことのほうが多いです。ネガティブにならず、いろいろな状況をポジティブに受け入れることって、とても大切ですよ。「言霊」という言葉がありますけど、ポジティブな考えや言葉を常に意識することで、人生は大きく好転すると思います。(波戸場耀次)