大好きな古着に教わった、コピーの在るべき姿。
小田和正さんの「言葉にできない」が流れるCMや、辻仁成さんの小説「ガラスの天井」というタイトル。今思うと自分の気持ちを言い換えてくれた言葉と出会い、意識しはじめたのは高校生のときだったのかもしれません。ただ、大学生になり進路を決める段階では、強烈にコピーライター志望という感覚はなく、様々な世界を勉強できる可能性に興味を持ち営業志望で博報堂に入社したのです。そこで幸運にも制作局・コピーライター職への配属。とんでもないところへ来ちゃったと思いました。最初はコピーっぽいコピーや、ウケそうな言葉遊びとか、表層をなぞるだけのコピーを書いていたような気がします。すぐに自分に嫌気がさしました。それで本当にいいのか?と自問自答し、上司や誰に何を言われても絶対に自分が良いと思うコピー、その題材はなんだろう、と考えました。僕は昔からアメリカのビンテージが好きだったので、古着屋のコピーなら自分の方が愛しているのだから書けるはずだと思ったのです。自分で古着屋に提案に行き「戦争を4度体験したジーンズ」というコピーが生まれました。結果、東京コピーライターズクラブ新人賞をいただくことができ、それがわたしのターニングポイントになりました。この時「これなら審査員が笑ってくれるだろう」という発想で言葉を書いていたら、まったく違うコピーライター人生だったと確信しています。歴史という、現代の物では手に入らない価値を伴った古着。そこでコピーを書きたかったのです。「嘘をつかず、自分が信じられる価値でコピーを書く」ということが仕事の信条になりました。書く自分自身が自信をもって書いたものでなければ、人の心を動かしたり、人を説得することなどできないのです。
言葉は誰でも使えるもの。そして今は、誰もが言葉を発信できる時代です。そんな中、コピーは他では使えない、たった1つしかない言葉。辞書から言葉は増えないですから、日々厳しい戦いです。プロとしての仕事が問われています。人間の本質を突き、年齢や時代が移り変わったとしても人間に響き続ける言葉を一つでも多く生み出しつづけたいと思っています。おじいさんになっても書きつづけたい。クリエイターを目指すみなさんも、何の職業に就くとか、どの会社に就職するかを決めることも大事ですが、どうぞ、何かを形にすることを大事にしてください。そして、それをし続ける。誰かが必ず見てくれている時代です。遠回りにみえて、近道な気がしますよ。