負けることを畏れず、負けられる素直さを持つこと。
デザインには、人とモノの関わりを調整して、価値をレバレッジすることができる力が備わっています。例えば“3.11”の40時間後に立ち上げた「OLIVE」。そこには様々な人の思いやアイデア、アクションが集合し、身近なゴミなどが湯たんぽになる等の価値の変化が生まれています。
デザインにおいて、モノをつくること自体は目的ではないと考えています。モノができあがることで、人とどんな関係が生まれ、どのように機能していくか、どんな価値が人にもたらされるかということこそが本質だと。ただ生み出すだけではなく、どう生み出されるべきか─「todo」よりも「tobe」が大切で、そこにアプローチすることがデザインだと感じています。
価値を創っていくためには、自分ひとりの力で賄えないことが往々にしてあります。誰と創っていくかを考える必要も生じるわけですが、まず何よりも先に、学生のみなさんはデザインのプロになることがとても重要です。それなくしてキャスティングはできません。ひとつ深い知識とスキルを身につけた上で、幅広い視野をも備えた人を“T型人間”と言います。深堀りした部分がないと、大きな理念に気付かなかったり、実現しようとする際に自ら動けなかったり、理論を語るだけの人になってしまいかねません。でも一か所だけでも深みがあれば、それがトリガーになって他人に意見できるようになり、集団によるイノベーションをまとめ上げられるようになります。
個人が何かのプロになることは、集団でイノベーションすることに比べたら実に簡単なことです。生じている現象を他人とシェアする必要はないわけですから。プロになるべく学ぶ際、気に留めておいてほしいのは、「負けることを畏れない」ということです。自分のデザインが評価されないと、自分自身が負けたような気がして怖い...その感情はハングリーであればあるほど増長し、勝負できないという状況に陥ってしまいます。負けたら悔しいけれども、そこから次に勝つための戦略が立てられるのだからラッキーと考えるべき。それこそ、いきなり世界一を決めるようなデザインコンペに作品を出してみたらいいんです。負けられる素直さを持っている人が伸びると思いますね。