心がけているのは、レストランでのおもてなしのようなデザイン。
子供の頃、姉と一緒に絵画教室に通っていました。姉は器用で、絵も上手。子供ながらに嫉妬して、いつも負けたくないと感じていました。そんな姉は、美大を経てイラストレーターに。うっすらと、自分も美大に行ってみたいと思い始めたのですが、時すでに遅しと感じました。自分が通っていたのは理系の高校でしたから。
美大を経て大手広告代理店へ、というエリートコースは歩めない。それでもやりたい道へ進もうと、19歳でエディトリアルデザインを中心に行う制作会社に入りました。ちょうど2000年前後で「これからWebの時代が来る」と言われていた頃です。自分の武器のひとつとしてWebデザインをやっていきたい気持ちで異動願いを出し、社内のWeb部門で経験を積みました。コーディングありきのWebデザインは、理系出身としてスムーズにフィットしましたね。ミュージシャンのWebサイトを作り、賞をいただくこともありました。
その後、野田凪さんのもとでアートディレクションに携わる機会を得ます。そこで感じたのは、「これまで、自分自身ストッパーをかけてものづくりをしていたんだな」ということ。落としどころを設けずに突き詰める経験を重ねました。次に師事したのは佐野研二郎さん。佐野さんのところでは、プレゼンテーションを含めロジカルにクリエイションする姿勢を学びました。そして30歳で独立。野田さんと佐野さん、お二人の影響が大きかったですね。
独立当初は知り合いから仕事を貰ったりして、小さな案件でも丁寧に作ることを心がけました。カタログのデザインを受注した際「こんなポストカードもどうですか?」などと、依頼されるだけでなくこちらから提案し、その実ったデザインを自らのWebに掲載して、実績の幅を広げていましたね。するとやがてWebサイト経由で依頼が舞い込むようになり、次第に忙しくなりました。
自分は、料理やレストランから刺激を受けることが多々あり、会社を立ち上げた時に心に抱いた指針は、「レストランみたいな会社にしたい」ということです。食材やソースの色、お皿の余白の美しさ。料理にはデザインの要素が詰まっています。加えて、香りや食感、マナー、スタッフの給仕の所作などもすべてデザインです。レストランで料理を振る舞うように、お客様をおもてなしするようなデザイン提案を心がけていますね。デザインを学ぶ中で、ぜひ皆さんも「自分のデザイン」の指針を見つけて、突き詰めていってほしいと思います。