PROFESSIONAL MESSAGEプロフェッショナルメッセージ

佐藤 亜沙美Asami Sato

PROFILE
グラフィックデザイナー、ブックデザイナー。1982年、福島県生まれ。2006年から2014年にブックデザイナーの祖父江慎さんの事務所・コズフィッシュに在籍。2014年に独立し、サトウサンカイを設立。季刊文芸誌『文藝』のアートディレクターをはじめ、エッセイからビジネス書まで幅広く担当書籍は多数。そのほか大河ドラマ「鎌倉殿の13人」のロゴ、CDジャケット、広告のデザインなど多岐にわたる。東京デザインプレックス研究所プレックスプログラム登壇。

デザインの足腰を鍛えることがプロへの道。

私は子供の頃、国語と美術が得意で、いつの頃からか絵の世界に関わりたい、と何となく考えていたんです。進路を決める際、デザインの道に進みたいと両親に相談した時は「クリエイティブな業界で成功できるのは一握り。不安定な業界よりも安定が望める業界に進んではどうか」と反対され、一筋縄ではいかないスタートでしたね。でも、自分の心が決まってからは、自己流にデザイン業界にアプローチ。プロの話が聞ける場所にたくさん足を運び、一流の方たちの考え方をたくさんインストールしていきました。

まず入社したのは広告デザインの現場です。先輩に教わりながら、がむしゃらに作っていましたが、『装丁』という仕事を知って、「自分はこういう仕事がしたかったんだ!」とカチッと自分のピントが合った瞬間を覚えています。師匠である祖父江慎さんには、講演会がある度に押し掛けて、自分が担当した本のデザインを見ていただいていました。その熱意が伝わったのか、祖父江さんの元で仕事ができるようになりました。日本は繊細な方が多いイメージですが、チャンスがあれば自分をグッと押し出した方が長い目でみたときに良いと思います。現在、私のところにも、デザインしたものを持って来てくださる方が増えました。皆さん、スマートでとても上手なのですが、最近流行っているなという表現をそのままトレースしたようなデザインが多い印象があります。流行りを自分の制作物に落とし込んで見た目がよくなったとしても、本来デザインという仕事に課された課題解決ができているかは、よく考えなければいけないと思います。デザイナーを志す方には、古本屋や図書館などであらゆる年代のデザインを見まくるのがオススメです。時代による、書体の使われ方、紙の使われ方などを見て、その背景を自分なりに掘り下げいくと大きな流れが見えてきて、自分の中で体系化されていくのではないでしょうか。わたし自身プロになるまでに鍛えた足腰みたいなものにその後の創作を支えてもらっている気がします。

本は、地味な作業の繰り返しの先にできあがります。ひたすら文字を詰めたり、細部を作り込んだり…。一作にだけ打ち込む時間も限られているので同時期に30案件くらい抱えていることも少なくありません。私はそれぞれ作品によって違う人格になるくらい、のめり込む作り方をしていて、とてもエネルギーのいる仕事です。それでも、私はデザインという仕事が根っから好きなんです。だから、朝職場に来た時が一番安心しますし、仕事をしている時が一番心地よいのです。それは、クライアントの「ありがとう」という言葉や、「デザインを見て、この本を買いました」という反応があるおかげかもしれません。デザインが「届いた!」と実感して、様々なことが報われる瞬間です。