見聞を広げて自分の価値判断の基準をつくること。
自分は若い頃、デザイナーになりたいとは思っていなかったのです。きっかけとなったのは、DJとかVJの音楽活動。地元京都のクラブでピチカート・ファイヴの小西康陽さんやFPMの田中知之さんに知りあって、この業界に入っていきました。音楽をやっている人たちを手伝っていくうちに自然の成り行きで、といった感じでしょうか。依頼を受けることも多くなって、仕事としてやるようになっていったのです。
デザインの仕事をこれまでやってきて、大事なのはチームワークを意識することだと思っています。ですから、groovisionsでも何より注力しているのはチームづくりです。メンバーに求めているのは、感覚だけではなく、コンセプトのしっかりしたものがつくれるということ。チームでやっていくには、当然コミュニケーションが重要ですし、筋の通った作品でないと、多くの人には伝わらないと思うのです。ですから、採用の際にも、ポートフォリオが明快に編集されているかを見ますね。伝えようという姿勢は、内容やボリュームだけでなく、情報をいかに整理するかなどに直接反映されてきます。
また、デザインをするためには、若いうちに何でも見て聞いて自分の「価値判断の基準」を作っておくと良いと思います。これは若いうちじゃないとなかなか出来ないこと。私も学生の頃は、映画が大好きで数でいうと一日一本以上を観ていました。好きで観ていただけですが、今思えばこれが自分の「価値判断の基準」になっているような気がしています。好きなものは人によって異なるし、見聞の広げ方は多岐に渡ると思うので、例えば、食や旅行、音楽など、自分の興味の赴くものからインプットを増やしていくのがいいと思います。
自分は、デザインはサービス業だと思っているんですよ。デザイナーは労働時間が長く、制約が多い、と認識を持っている人もいますが、コミュニケーションのサービス業として捉えると、まあ、あたりまえというか、すこし違ったポジティブな見え方もできると思います。デザインの仕事に就いてそこにやりがいを見いだせればそれは本当に素晴らしいこと。自分は小西さんをはじめとする当時の音楽の波に巻き込まれなければ、違うことをしていたかもしれませんが、デザインを仕事にできてラッキーだったと思ってます。自分の人生を託すに価値のある職業のひとつだと信じています。